君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「父親としても夫としても、あのふたりの所業は許せるものではなかった。そこでだ。けじめとして都に離婚を申し入れたんだが、かなりごねられてしまってね」

「え?」

 ふたりは政略結婚で一緒になったはずだ。そんなに簡単に切り捨てては、都の実家も黙っていないのではないか。

「どうにも受け入れないから、離婚を回避する代わりに条件をのませた。九州の方にいる私の親族が、そちらに空き家を所有していてな。仕事の手伝いをするなら、そこにただで住ませてやると申し出てくれたんだ。史佳とそろってその話に従うなら離婚はしないと言い渡したところ、ふたりは受け入れたよ」

 予想もしていなかった話に困惑する。
 史佳や都の普段の様子から想像するに、そんな話を簡単に受け入れるとは思えない。おそらく父は、有無を言わさず無理やり従わせたのだろう。

「どうだろう。先日の件は、これで治めてくれないだろうか」

 治めるもなにも、私が望んだのは家族の対話だ。それに晴臣さんだって、ふたりが私に関わらないように要求しただけ。わたしたちは、そんな厳罰のような仕打ちを望んでなんかいない。

 おそらく父は、今回の件を利用して疎ましく感じていた妻子を追い出したかったのだろう。

「おふたりは、いつからそちらへ?」

 晴臣さんが探りを入れると、父は自信満々な笑みを浮かべた。

「ああ、昨日のうちにこっちを発ったよ」

 まさかもう移動済みなのかと、驚きに目を見開く。
 いかにも私たちのために迅速に対応したように話す父に、嫌悪感を抱いた。

「そうですか。亜子も私もそこまで求めた覚えはありませんので、それは酒々井社長の判断で行ったと捉えておきましょう」

 晴臣さんも私の意見と同じだったようで、これは父の独断だと断言した。
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