君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 わずかに不快そうな表情をした父だが、すぐに取り繕う。

「あなたは今回のことで、私の提示したように亜子の気持ちを尊重しましたか?」

「もちろんだとも。亜子だって、あのふたりの仕打ちに心を痛めていたはずだ。いなくなって、ほっとしだろ?」

 そんなの当たり前だろうとでも言うように、父が私の方を向く。けれど、私はもうこれまでのようにうなずけそうにない。

「そうだろ、亜子?」

 声に圧を滲ませて再び父が私に尋ねてきたが、それでもやっぱり同意はできなかった。
 震える私の手に、晴臣さんが手を重ねてくれる。その温もりに後押しされて、ゆっくりと口を開いた。

「私は、そんなふうにお願いした覚えはありません」

 初めて反発した私を、父がジロリと睨みつけてくる。
 怖くてたまらなくても、ここで引くわけにはいかない。

「たしかに、これまで私はふたりの言動に苦しめられてきました。でもそれは、突然やってきた私にも原因があるとわかっています。だから、ふたりにいなくなってほしいだなんて、考えたこともありません」

 願ったのは、家族三人の和解だ。

「なにを言ってるんだ、亜子!」

 凄む父に、ピクリと肩が跳ねる。

「酒々井社長」

 けれど晴臣さんに咎めるように呼ばれて、父は前のめりになっていた身を渋々引いた。

「私はただ、史佳の犯罪行為をあなたがきちんと認識して、その上で二度と同じ過ちを繰り返さないように、家族三人で話し合ってほしかった」

 それをせずに、父は一方的にふたりを突き放した。この人には、彼女たちに歩み寄る気など微塵もなかったのだろう。
 これでは彼女たちは私への憎悪を大きくするばかりで、なんの解決にもなっていない。
 ふたりと私が和解できるとまでは思っていなかったけれど、さすがにこんな終わり方は残念でならない。
< 96 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop