君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「どうやら、私の提示した条件は守られていないようですね」

 厳しい口調で晴臣さんが継げる。
 この件に関して父が私の意見を一度も尋ねていないのは、あの日から一緒に暮らしている晴臣さんも当然知っている。

「そ、そんなつもりは」

 父は言い訳が思いつかないのか、それ以上は言葉が続かない。

 晴臣さんは、会社同士の関係に関わらず私と結婚したいと言ってくれている。三崎家との縁談が白紙撤回されるのではと恐れているのは、私たちの気持ちを知らない父だけだ。

「いやあ、今回の話は私の勇み足だったようだ」

 ころっと態度を変えた父は、申し訳ないと苦笑した。

「あのふたりを許せてしまうとは、亜子は母親に似て優しい子に育ってくれたな。私も鼻が高いよ」

 この人に、母の話をされたくない。

「今度から私も気をつけるとしよう。それで衣装の話だが」

 強引に話を変える父に、私の中で苛立ちが大きくなる。

「私は、あなたの用意するものを着たくないです」

 感情のまま、とっさに父を拒絶した。

「なにを言ってるんだ亜子。これはもう決定している話だ。とりあえず既成品の中で一番上等なものを選んで、急いで手を加えさせている。式までにはなんとしても間に合わせるつもりだ」

 私の必死な願いを、父はまったく取り合ってくれない。

「酒々井社長。私たちはその話をのむつもりはありませんよ」

「なにを言ってるんだ、晴臣君。これは最初から決めていたことじゃないか。それに、こちらは先代への恩があるんだ。これくらいは譲歩するべきだろう」

 この人と私に血のつながりがあるという事実が恥ずかしい。
 どこまでも自分本位な態度に、もうなにを言っても聞いてもらえないのだと悟った。
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