甘いため息ーーイケないお兄さんは好きですか?
「俺もお前みたく馬鹿正直だったらなぁ」

 果穂ちゃんへ真っ直ぐ気持ちを伝えられない自分が情けない。
 額に手をやり、眉間を揉む。

(果穂ちゃん、まだ泣いてるだろうな。すまない、本当にすまない)

「ーーあぁ! やっぱり手を握って【味噌汁が家庭の味だ】とか口説いたのに無視されて凹んでる? あはは、普通こんな事言われたらプロポーズなのにな。果穂、にぶ過ぎ」

「やめろ、抉るな、人の傷を」

「果穂を泣かした腹いせだ。でも兄貴に同情もする。果穂は兄貴に対してお兄ちゃんフィルターをかけてて、もどかしいよな」

 ーーお兄ちゃんフィルター、言い得て妙。
 開いたままのベランダに屈み、正樹へ背を向ける。するとスプーンが皿にぶつかる音で殴られた。

「お前も大概、お兄ちゃんフィルターかかってる。好きな人を取られ、泣かされても指を咥えてるだけなんて俺なら無理。拳で殴る」

「そりゃあ一発くらい殴りたい。けど、暴力じゃ解決しないだろ」

「へぇ、耐えるんだ? よく躾けられてる大型犬だな」

「兄貴こそ耐えてるでしょ。学費を出したから、果穂本人に手を出せないんじゃない? オレ、なんとなくだけど気持ち分かる。援助交際みたいで嫌だよな?」

「ちょっ、はぁ? え、援助交際?」

「もしくはパパ活?」

「待て待て、そこまで歳は離れてないだろう! 言っとくが俺はまだ枯れてない! なんなら非常に危うい! 毎晩理由をつけて遅く帰宅してるのも果穂ちゃんと2人きりになったらーー」

 ここまで言い訳を連ね、ハッと我に返った。

「へへ、ごちそうさま」

 まんまとこちらの本音を引き摺り出した正樹はニヤつく。

「あのな、別に俺は惚気てなんか」

「オムライスに対して言っただけです〜」

 正樹に会話の主導権を握られてしまった。右へ左へと心を揺さぶられるうち、本心が床に転がる。
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