甘いため息ーーイケないお兄さんは好きですか?
「さてさて【待て】と【お座り】をさせられてるのは、どっち?」

「ーーはぁ、性格悪いな、大人げない」

「兄貴よりマシ。果穂に好きって言わせたくて思わせ振りしやがって。と思いきや冷たく突き放す。果穂、可哀想。オレにしとけばいいのによ」

 はぁぁ、正樹が最大級のため息を吐き、吹き飛ばれそう。

「正樹」

 崩していた姿勢を正す。スプーン片手に頬杖つく正樹は瞬く。

 もう誤魔化さない、覚悟を決める。

「果穂ちゃんだけは渡せない。ずっと、ずっと大事に想ってきた。お前から見たらぞんざいに扱ってるように見えるかもしれないがーー」

「知ってる、兄貴が果穂を大事に想ってるのなんて。おじさん、おばさんが亡くなった時、兄貴が誰よりも先に駆け付けて、葬儀とかも取り仕切ったじゃん。オレにはそんな真似できねぇ」

「それはお前が学生で」

「学生だから? ガキだから一緒に泣いて悲しんでやる程度しか出来ない? バカにするなよ! 果穂は兄貴に寄り添って欲しかった! 兄貴が居たから立ち直ろうとしてる! で、兄貴も果穂の為なら何でもしてやるじゃん!」

 正樹の目尻が潤み、雑に顔を背けた。スプーンを折りそうに握り締めて。

「兄貴も果穂も怖がってないで話し合えよ、じれったい。こっちが精神削られるわ」

「……今日の食事会は?」

「由佳さんの件を出したのは謝る。オレもお袋も兄貴と由佳さんが付き合うとは思ってない。2人をくっつける口実というか」

「そうか、ありがとう」

 自然とその言葉が口をついて出た。

「こういうシチュエーションだとお前を抱き締めればいい?」

「んで俺を抱きしめるんだよ! 果穂にしろ!」

「果穂ちゃんを抱き締めたりしたら、それだけで収める自信がないな。優しいお兄ちゃんの仮面が剥がれてしまう」

 正樹が赤い目のまま睨む。
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