甘いため息ーーイケないお兄さんは好きですか?
「とっくに優しいお兄ちゃんの仮面、外れてる。ひでぇ顔してる」

「酷い顔はお互い様。ティッシュ使え」

 ボックスごと奪い、背を丸めて鼻を噛む正樹。

「果穂ちゃんにはすぐ謝る」

「あいつ、マイナス思考で落ち込むと長い。それから果穂に最近ちょっかい出してる女だけど」

「ミスコンの?」

「そう、瑠美って女。早めに引き剥がした方がいいぜ。つるんでる連中にいい噂を聞かない」

 果穂ちゃんに送られてきたメール内容を振り返り、ふむと唸る。バイトをしているうちは飲み会などの外出は控えると踏んでいたが、そろそろ潮時か。

 俺も寄り道などせず、出来れば果穂ちゃんが待っていてくれる間に帰宅したい。夕飯を作って欲しい訳じゃなく、ただいまとかおかえりを言い合いたい。

「という事でよろしく!」

「帰るのか? 泊まっていってもいいけど」

 玄関まで見送ろうとしたが、しっしと手で払われる。

「正樹、ありがとうな」

 もう一度、正樹に向けて呟いた。
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