極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
1時間ほど走り回ってから、近くのドッグカフェで休憩する。
安藤はここでもトオルを膝に載せて、微笑みながらずっと頭をなでていた。
(ははっ、完全に俺のことは眼中にないな)
そう思っていたが、ふいに安藤が顔を上げて吾郎に話しかけた。
「都筑さん」
「ん?なに」
「先日は、仕事のことで愚痴をこぼしてすみませんでした。私、あれから色々考えて、原口さんにも相談に乗ってもらったんです。営業部でもう少し勉強してから、いずれはお部屋の内装やリフォーム、それから間取りを考える部署に異動願いを出すことにしました」
吹っ切れたように話す安藤に、吾郎は意外な気がした。
「お客様がどんなお部屋を望んでいらっしゃるか、どんな間取りなら喜んでいただけるか、それを知る為に異動が決まるまでは営業でがんばります。原口さんにも、お前ならまだまだやれるって励ましてもらって…。将来、自分がやりたいことが出来るように、私、これからもがんばりますね」
そう言って笑う安藤は、あの時とは別人のようにキラキラと輝いている。
「そうか、良かったね。しっかり自分が進むべき道を見つけられたんだね」
「はい、原口さんのおかげなんです。営業に異動になった時からずっと気にかけてくださっていて…」
3回目…と、吾郎が思わずポツリと呟く。
「はい?何がですか?」
「君が、原口さんの名前を口にするのが」
え…、と安藤は言葉に詰まった。
「原口さん、確かにずっと君のことを気にしていたよ。君が営業に来てすぐに大きなマンションを担当することになって、プレッシャーを感じてるんじゃないかって。君が酔っ払った時もね。あ、そうそう。ちゃんと誤解は解いた方がいいよ」
「誤解…ですか?」
「うん。原口さん、君のこと、トオルって彼氏とつき合ってると勘違いしてると思う。だからきちんと説明しておきなよ」
「…どうしてですか?」
「それはだって、誤解だと分かれば原口さんは君に…」
思わず余計なことまで口を滑らせそうになり、吾郎は口をつぐむ。
すると安藤の様子がおかしなことに気づいた。
トオルをなでる手を止めて、じっとうつむいている。
「あの、どうかした?」
恐る恐る尋ねると、安藤は首を振る。
「いえ、何でもないです」
「でも様子が変だよ?どうしたの?」
「だって、それは…」
顔を上げた安藤の目から、涙が溢れてこぼれ落ちた。
えっ!と吾郎は驚く。
「ど、どうしたの?一体、何が…」
「自分でも、よく分からないんです。だけど都筑さんが、原口さんの誤解を解いた方がいいって言うのを聞いたら、なぜだか急に悲しくなって…」
「ええ?どうして?」
「都筑さんこそ、どうして私に、原口さんの誤解を解けっておっしゃるんですか?」
「えっと、それは…。原口さんの誤解が解ければ、何か進展があるかもしれないし」
「進展って、何の進展ですか?」
「それは、まあ、色々…。誤解を解いてみたら分かるんじゃないかな?」
「そうですか…」
安藤は小さく呟くと、またトオルの頭をなで始める。
結局そのあとも、二人はずっと気まずい雰囲気のままだった。
「じゃあね、トオルちゃん。バイバイ」
マンションまで送り届けると、安藤はトオルに小さく手を振る。
その悲しげな微笑みが、吾郎はいつまでも目に焼き付いて離れなかった。
安藤はここでもトオルを膝に載せて、微笑みながらずっと頭をなでていた。
(ははっ、完全に俺のことは眼中にないな)
そう思っていたが、ふいに安藤が顔を上げて吾郎に話しかけた。
「都筑さん」
「ん?なに」
「先日は、仕事のことで愚痴をこぼしてすみませんでした。私、あれから色々考えて、原口さんにも相談に乗ってもらったんです。営業部でもう少し勉強してから、いずれはお部屋の内装やリフォーム、それから間取りを考える部署に異動願いを出すことにしました」
吹っ切れたように話す安藤に、吾郎は意外な気がした。
「お客様がどんなお部屋を望んでいらっしゃるか、どんな間取りなら喜んでいただけるか、それを知る為に異動が決まるまでは営業でがんばります。原口さんにも、お前ならまだまだやれるって励ましてもらって…。将来、自分がやりたいことが出来るように、私、これからもがんばりますね」
そう言って笑う安藤は、あの時とは別人のようにキラキラと輝いている。
「そうか、良かったね。しっかり自分が進むべき道を見つけられたんだね」
「はい、原口さんのおかげなんです。営業に異動になった時からずっと気にかけてくださっていて…」
3回目…と、吾郎が思わずポツリと呟く。
「はい?何がですか?」
「君が、原口さんの名前を口にするのが」
え…、と安藤は言葉に詰まった。
「原口さん、確かにずっと君のことを気にしていたよ。君が営業に来てすぐに大きなマンションを担当することになって、プレッシャーを感じてるんじゃないかって。君が酔っ払った時もね。あ、そうそう。ちゃんと誤解は解いた方がいいよ」
「誤解…ですか?」
「うん。原口さん、君のこと、トオルって彼氏とつき合ってると勘違いしてると思う。だからきちんと説明しておきなよ」
「…どうしてですか?」
「それはだって、誤解だと分かれば原口さんは君に…」
思わず余計なことまで口を滑らせそうになり、吾郎は口をつぐむ。
すると安藤の様子がおかしなことに気づいた。
トオルをなでる手を止めて、じっとうつむいている。
「あの、どうかした?」
恐る恐る尋ねると、安藤は首を振る。
「いえ、何でもないです」
「でも様子が変だよ?どうしたの?」
「だって、それは…」
顔を上げた安藤の目から、涙が溢れてこぼれ落ちた。
えっ!と吾郎は驚く。
「ど、どうしたの?一体、何が…」
「自分でも、よく分からないんです。だけど都筑さんが、原口さんの誤解を解いた方がいいって言うのを聞いたら、なぜだか急に悲しくなって…」
「ええ?どうして?」
「都筑さんこそ、どうして私に、原口さんの誤解を解けっておっしゃるんですか?」
「えっと、それは…。原口さんの誤解が解ければ、何か進展があるかもしれないし」
「進展って、何の進展ですか?」
「それは、まあ、色々…。誤解を解いてみたら分かるんじゃないかな?」
「そうですか…」
安藤は小さく呟くと、またトオルの頭をなで始める。
結局そのあとも、二人はずっと気まずい雰囲気のままだった。
「じゃあね、トオルちゃん。バイバイ」
マンションまで送り届けると、安藤はトオルに小さく手を振る。
その悲しげな微笑みが、吾郎はいつまでも目に焼き付いて離れなかった。