極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
「足、見せてくれる?」

ソファに座った瞳子の前にひざまずき、川上はそっと瞳子の右足首に触れる。

痛みに思わず身を固くすると、ごめん、とすぐに手を離した。

「この辺りだね。少し冷たいよ」

そう言って氷嚢をゆっくりと患部に当てた。
ヒヤッとした冷たさが、熱を持ち始めた足首に気持ちいい。

「えっと、このまま病院に行く?俺、付き添うよ」
「いえ!そんな。軽くひねっただけですし、こうやって冷やしていただいたのでもう大丈夫です」
「ほんとに?明日のステージも平気?」
「はい。明日はロングドレスなので、ペタンコのシューズにします。あの、川上さん。湿布だけ頂いてもよろしいでしょうか?」
「え?ああ、もちろん」

川上は救急箱を開けると湿布薬を取り出し、瞳子の右足首に貼って包帯で固定した。

「これで大丈夫?」
「はい、ありがとうございました」

瞳子は着替えるのは諦めてコートだけ羽織り、靴は家から履いて来たバレエシューズタイプのものに履き替えた。

「川上さん、本当にありがとうございました。お手数おかけしました」
「いや。それより一人で平気?」
「はい。タクシーで帰りますので」
「じゃあタクシー乗り場まで送るよ」

その時、コンコンとノックの音がした。

「はい、どうぞ」

瞳子が答えるとドアが開いて、私服に着替えたマエストロが顔を覗かせた。

「よっ!まみちゃん。聞いたよー、結婚したんだって?はい、これ。お祝い」

そう言って、真っ赤なバラの花束を瞳子に手渡す。

「えっ!まあ、こんなに綺麗なバラを…?」

思わず呆然としていると、マエストロは少し苦笑いする。

「実は俺の楽屋に届いた花なんだ。使い回しみたいでごめんね。でも俺の家に持って帰るより、まみちゃんの部屋に飾ってくれた方がバラも喜ぶよ」
「そんな…。お気持ちがとても嬉しいです。ありがとうございます、マエストロ」
「どういたしまして。良かったら今度紹介して。とびきり美人のまみちゃんを落とした、世界一幸せなお相手をね」
「あ…、はい。ありがとうございます」

なんと答えればいいのか分からず、微妙な笑顔になる瞳子に、じゃあまた明日ね!と軽く手を挙げてマエストロは部屋を出て行った。
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