極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
(はあ、がっくり…………)

わずか数秒のときめきは呆気なく終わった。

(そうだよな、そりゃそうだ。いくら何でも夢見過ぎだ)

吾郎はグラスをグイッと煽る。

(オシャレなバーだからって、そう簡単に声をかけられたりは…)

そう思った時、隣から「あれ?もしかして…」と声がした。

セリフだけ聞くと期待してしまうが、その声は明らかに男性の声だった。

真顔のまま、吾郎は声の主を見上げる。

「やっぱり!あの、アートプラネッツの方ですよね?」
「はい、そうですが?」
「実は私、半年ほど前にテレビで取材されているのを拝見しまして。とても興味を惹かれたので、近々ご連絡して仕事を依頼したいと思っていたんです」

そう言って、30代半ばに見える男性は、スーツの内ポケットから名刺を取り出した。

「私、内海不動産の原口と申します。ちょうど弊社が新しく売り出す新築マンションについて、ホームページやモデルルームでもデジタルコンテンツを駆使したいと思っていたんですよ」

一気にまくし立ててから、「あ!すみません。お隣よろしいですか?」と断って吾郎の隣に座る。

「いやー、こんなところでお会い出来るなんて。夏の御社のミュージアムにも伺いました。素晴らしい技術ですね!うちのマンションも、お客様がそこでの暮らしを想像しやすいように、ARやMRを使った楽しめるコンテンツを用意したいと思っていたんです。ファミリー向けの1000戸ほどの大規模低層レジデンスで、俺の営業マンとしての全てをかけて取り組もうと…」

男性はカバンから資料を取り出すと、次々とテーブルに広げて吾郎に熱弁をふるう。

結局この夜、吾郎が出逢ったのは運命の彼女ではなく、熱血な営業マンだった。
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