極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
第七章 一人新喜劇
「それでは、こちらのスクリーンをご覧ください」

年が明けたある日の午後。
吾郎は内海不動産を訪れ、コンテンツのアイデアやイメージを伝えるミーティングを行っていた。

「まずこちらがマンション全体の紹介映像です。街のイメージや立地の良さを強調し、実際に生活する上での利便性やワクワク感を感じていただけるような内容にします。ターミナル駅へは徒歩10分。駅ビルにあるショッピングエリアやカフェ。そしてスーパーや病院も。それらを次々と映し出し、広い公園や幼稚園、学校などへも、整備された歩道で安全に通えることをナレーションでつけ加えます」

ライトを暗くした会議室で、前方のスクリーンに動画を投影しながら、吾郎は3人の様子をうかがう。

前回と同じ、熱血営業マンの原口と部長の木谷、そして若手の女性、安藤。

3人ともじっと吾郎の言葉に耳を傾けながらスクリーンを見つめている。

反応は良さそうだ、と吾郎は先を進めた。

「そして次にマンションの紹介です。まずは、南仏プロヴァンス風の外観と設備から。1000戸という規模でゆったりとした低層レジデンスですから、まるでそこが1つの街のように、外国へ来たような気分になれるよう、この部分は角度を変えて尺も長めに紹介します。あとはセキュリティシステムや免震構造、太陽光パネルや雨水活用などのサステナビリティ、生き物の生態系を大切にしたビオトープ、ここも重要なポイントとして考えます」

吾郎は話に合わせて次々と画面を切り替える。

「そしていよいよお部屋の紹介です。ここはウォークスルーで、実際にお部屋に招かれたゲストになった感覚でご覧いただきます。オシャレな門扉と玄関、ウォークインシューズクローゼット、ゆったりしたリビングと開放的なウッドデッキのオープンテラス、ダイニングキッチンやバスルームも。あとはお部屋ごとにテーマや間取りが違いますので、そのご紹介ですね」

書斎やテレワークスペースのある間取り。
子どもの成長に合わせて、部屋を2分割出来る間取り。
シアタールームや防音室があるお部屋。
アイランドキッチンのお部屋、など。

「ある程度オプションで希望を言えるところも、新築マンションの強みですので、そこもしっかりとご紹介します。最後に共用施設や敷地内の公園、クリニック、コンビニなどの紹介をして、実際にそこで暮らす家族の幸せそうなイメージシーンで締めたいと思います。いかがでしょうか?」

吾郎が3人を振り返ると、木谷が大きく頷いた。

「いいですね。こちらからお願いしようと思っていたことを全て先回りされた感じですよ。ははは!私からは何も言うことはありません。あとは、モデルルームの体験コンテンツはどうですか?」
「はい。そちらもいくつか案を練ってあります。主なターゲットはお子様と女性ですね。大きな敷地マップに手をかざすと、その部分の施設をインタラクティブに紹介します。公園ですと、友達に誘われて実際に遊具で遊ぶ映像であったり、パーティールームなら、バースデーパーティーに参加しているようなシーンが現れます」
「へえー、それは楽しみだ」
「ありがとうございます。この部分については、実際の建物を反映して制作しますので、まだ手を付けるのは先になるかと思います」
「確かにそうですね。モデルルームも、都筑さんのコンテンツに合わせて内装を考えますし…。都筑さん、お時間あればこれから現地にご案内しましょうか?」
「あ、はい!ぜひ、お願いしたいです」
「そうですよね。今までご提案せずに申し訳なかった。じゃあ、原口くんと安藤さん、二人でご案内して来てくれる?」
「かしこまりました」

そして原口の運転で、3人は建築中のマンションに向かった。
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