極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
第八章 生命の誕生
「じゃあ瞳子ちゃん。取り敢えず頭から1回通してみてくれる?」

録音ブースの中の瞳子は、聞こえてきた吾郎の声に「分かりました」と答えて姿勢を正す。

1月の下旬、内海不動産のモデルルームで流す紹介映像のナレーションを録音する為、アートプラネッツの4人は瞳子を連れて貸しスタジオに来ていた。

映像を見ながら、瞳子は台本のセリフを丁寧にマイクに向かって語りかける。

「ひゃー!ほんとに綺麗な声だな、アリシアって。ヒーリング効果があるよ。癒やされるー」

聞こえてくる瞳子の声に、透は両手を広げて目を閉じる。

「あはは!何やってんだよ、透。森林浴か?」

洋平が笑う横で、吾郎は真剣にヘッドホンに耳を傾けていた。

「うん!瞳子ちゃん、1発OKだよ。念の為、雰囲気を変えてもうワンテイクお願い出来る?」
「はい、分かりました。今度はもう少し明るい口調で早めにしゃべってみます」
「いいね、頼むよ」

瞳子のナレーションのクオリティの高さに、四人は大満足で録音を終える。

「あっという間に終わったな。仕事が出来るねー、瞳子ちゃん」
「じゃあさ!パーッと打ち上げに行こうよ!」
「透、まだ昼の3時だぞ」
「いいってことよ!」
「何がだよ?」

洋平が透にそう言った時、スマートフォンがポケットの中で震えた。

「お、泉だ。ちょっとごめん」

断ってからスタジオの片隅で電話に出る。

「もしもし泉?どうした…えっ?!」

大きな声で驚く洋平に、皆も何事かと注目する。

「それって、もうすぐ産まれそうってこと?」

今度は皆が、えっ?!と驚く。

「分かった、すぐに行くからな!泉」

急いで通話を終える洋平を、皆は一斉に取り囲む。

「洋平さん、赤ちゃんが産まれそうなの?泉さんは?大丈夫?」

瞳子が心配そうに尋ねる。

「大丈夫だよ。今日は健診の日で、病院に行ってるんだ。予定日をだいぶ過ぎたから、これから陣痛促進剤を使ってお産になるらしい」
「そうなんですね!今、病院なら良かった。でも泉さん、一人でがんばってるんですね」

大河も瞳子の隣に並んで声をかける。

「とにかく洋平も、早く泉さんの所に行け」
「ああ、ありがとう」

バタバタと出て行く洋平を、皆で見送る。

「がんばれよー!」
「安産を祈ってるからなー!」

洋平は背中を向けたまま手を挙げて応え、走り去って行った。

「ああ、どうか無事に産まれますように…」

思わず両手を組んで祈るように呟く瞳子の肩を、大河は優しく抱き寄せる。

「大丈夫だよ、きっと。みんなで無事を祈って、嬉しい報告を待とう」
「はい」
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