極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
第二章 新しい取引先
(あーあ、やっぱり俺には幸せの女神は微笑んでくれないのだろうか…)

翌朝。
しょんぼりと肩を落としながら、吾郎はオフィスのドアを開けた。

「おはよー」
「おはよう。ん?どうかしたか?吾郎」

奥のデスクにいた大河が顔を上げる。

「元気ないな。いつものイカツイ肩が、なで肩になってるぞ?」

すると手前のデスクの洋平も顔を上げた。

「お、ほんとだ。吾郎、夕べ Aqua Blueに行ったんだろ?どうだった?」

うん、まあ…と言葉を濁しながら、吾郎はデスクにカバンを置く。

こういう時、いつもなら「どしたのどしたのー?」とまとわりついてくる透は、亜由美と新婚旅行に行っており不在だった。

「バーでいい出逢いはあったか?」

洋平の言葉に、吾郎はカバンの中から書類と名刺を取り出しながら答える。

「そうだな。まあ、いい出逢いだった。30代半ばの営業マンとのな」

えっ!と大河が驚く。

「営業マンと?吾郎、お前ってそうだったのか!」
「は?そうだったとは?」

しばし考えてから、慌てて「違うわ!」と否定する。

「恋愛じゃない。仕事の話をされたんだよ」

そう言って原口の名刺を二人に見せる。

「内海不動産?不動産業界最大手だよな。そこがうちに仕事を?」
「ああ。なんでも、新築分譲マンションのホームページとモデルルームに、うちのデジタルコンテンツを取り入れたいって」
「へえー。確かに最近、360度内覧とか、バーチャルモデルルームとかって、不動産のホームページでも見かけるな」
「そうなんだ。それでこの原口さんの話では、モデルルームにも、建築中のマンションの完成イメージを分かりやすく伝えられるコンテンツを用意したいって。それをうちに委託したいらしい」

なるほど、と大河と洋平は頷く。

「夕べはバーで話しただけだし、もう一度きちんと先方の話を聞きに行きたいと思ってる。いいかな?」
「もちろん。いい話だと思うし、吾郎さえ良ければ頼む」
「分かった。今は他に大きな案件も抱えてないから、スケジュールが大丈夫なら俺が担当しようと思ってる」
「ああ。何かあれば俺達も手伝うから」
「サンキュー」

アートプラネッツの代名詞とも言える季節ごとのミュージアムも、人気が出て来て混み合う為、今は開催期間を半年にしている。

それに伴って、新しいミュージアムの為の制作にもかなり余裕があった。

今、この不動産の仕事を引き受けても大丈夫だろうと3人で頷き合い、早速吾郎は名刺に書かれたアドレスにメールを送った。
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