極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
「いらっしゃいませ」

シックな制服姿の受付の女性がにこやかにお客様を出迎え、予約表を確認して営業マンに引き継ぐ。

吾郎は邪魔にならないよう、片隅で様子を見守り、映像の準備や確認作業をする。

商談スペースに用意されたテーブルに続々とお客様が案内され、営業マンが明るく対応していた。

安藤も、今日は最初ということで、原口の補佐として一緒に回るらしかった。

午前中の予約のお客様が揃い、まずは大型スクリーンでマンションの紹介映像を観てもらう。

吾郎としてはドキドキの瞬間だったが、誰もがうっとりと笑顔で見とれていて、一安心する。

次はMRを使って建物の詳しい構造や立地、部屋から見える景色などを説明していく。

原口の言葉に合わせて、この日は吾郎が自ら操作を担当した。

男性はやはりこの説明を一番詳しく聞きたがるが、子ども達は退屈してきて母親の手を引っ張り始めた。

「ねえ、もう帰ろうよー」

男の子の大きな声に、その場にいる営業マン達がピクリと顔を引きつらせる。

「よし、じゃあ僕。あっちに面白いものがあるよ。行ってみる?」

吾郎が手招きすると、他の子ども達も集まって来た。

「ほら、大きな地図があるだろ?これは冒険の地図だ。好きな所に手をかざしてごらん。何が始まるかな?」

吾郎の言葉に、男の子はわくわくした様子で、そっと真ん中に手をかざす。

すると目の前に、子犬を散歩させている女の子の映像が立体的に浮かび上がった。

楽しそうに笑顔でパパやママを見上げている女の子が、ふとこちらを振り返り、にっこりと手招きする。

「え、俺?」

手をかざした男の子が思わず自分を指差す。

『早くおいで!公園に行こうよ』

聞こえてきた女の子の声に、男の子はキョトンとしている。

フッと映像が消え、吾郎が男の子に声をかけた。

「じゃあ、今度はここに手をかざしてみて」
「うん!」

他の子ども達も見つめる中、男の子が手をかざすと、次に映し出されたのは広くて綺麗な公園だった。

ブランコや滑り台、シーソーやアスレチック。
花壇のそばにはベンチやテーブルもある。

そして公園の外周は、ペットのお散歩コースになっていた。

先程の映像の女の子も、子犬と一緒に元気にお散歩コースを走っている。

「わあ、楽しそう!俺も行きたい!」

男の子が目を輝かせる。

「この公園は、このマンションに実際にあるんだよ。友達と思い切り遊んだり、ワンちゃんをお散歩させたり。奥には小さな森があって、夏にはカブトムシも見られるよ」

ええー?!と、子ども達は一斉に声を上げた。

「すごい!ここに住みたい!」
「私もー!」
「みんなでここで遊びたいね!」
「うん。友達になろうぜ!」

ワイワイと盛り上がる子ども達を、吾郎は微笑ましく見守っていた。
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