極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
「んー、随分視力が落ちているみたいですね。今の安藤様の視力に合わせると、このレンズになります」

眼鏡屋に着くと早速視力を測り、安藤は新しい眼鏡を試着する。

「わ、よく見えます。あー、でもなんだかクラッとしますね。酔いそう…」

店内を見渡してから、すぐさま眼鏡を外した。

「そうですね。かなり度数が高いので、慣れるまでは時間がかかるかと思います」

安藤は困ったように視線を落とす。

「私、もともと眼鏡が苦手で。かけていると頭が痛くなるんです。なので、わざと度数を落としてもらっていて」
「そうでしたか。では今回も、少し度数を下げてみますか?」
「はい。でも、仕事に支障がない程度にしたいです。会議室のホワイトボードの字が見えづらくて、毎回困っていたので」
「なるほど。そうですねえ…、それでしたら」

スタッフが考え込んでいる間に、吾郎は安藤に声をかけてみた。

「コンタクトレンズはどう?」
「あ、私もそうしたいんですけど、痛そうだなって躊躇してしまって…。高校生の時、友達がいつも、ゴミが入って痛いーって大変そうだったので」
「ソフトレンズなら、そんなに痛くないと思うよ。1度試してみたら?」

するとスタッフも口を開く。

「そうですね、試してみてはいかがでしょう?併設している眼科も、まだ診療時間内で空いてますから」

それならと、安藤は勧められるまま眼科の診察を受けた。

「では安藤様。特に問題ないとのことでしたので、早速コンタクトを着けてみますね」

先程のスタッフが、安藤を鏡の前に促す。

「少し前髪失礼します」

そう言って安藤の前髪をヘアクリップで留めた。

「はい、真っ直ぐ前を見ていてくださいねー。右目入りましたよ。どうですか?」
「え、もう?わあ、すごい!よく見えます!それに全然痛くないです」
「良かったです。それなら左目も入れてみましょう。はい、どうですか?」
「ひゃー!世界が変わりました!」

安藤は椅子を回転させて後ろを振り返る。

「あ、都筑さん!」
「え?なに?」
「都筑さんって、こんな人だったんですね?」

は?と吾郎は呆気に取られる。

「それって、どういう…?」
「なんだかもっとオジサンのイメージだったんですけど、若い!それにかっこいい!もう見違えましたよ。って文字通りですね。私が勝手にボヤケて見てただけですから。あはは!」
「あははって…」

どうやらコンタクトでよく見えるようになり、テンションが上がっているらしい。

つるんと形の良いおでこを見せながら、満面の笑みを浮かべている安藤は、いつもの彼女とは別人のようだった。
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