極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
「早速ですが、都筑さん。こちらが今回我が社が販売する新築分譲マンションの詳しい資料です。建築中のマンションを販売する訳ですから、お客様には完成後のイメージを、より分かりやすく、よりリアルにお伝えしたいと思っております。御社のお力をお借りすると、どのような事が期待出来るでしょうか?」

吾郎は原口の言葉に頷いてから、分厚い資料を提示しつつ説明する。

「まず、マンションの全体図として、パノラマビューの映像を作ります。都会の中のオアシスのような雰囲気で、ここに住みたいと憧れるような、ドラマチックなものに仕上げます。ロビーやコンシェルジュデスク、あとはスカイラウンジや共用施設なども、非日常感や高級感を前面に出して次々と紹介します。そして部屋の内部は、ウォークスルー形式で紹介します。実際に足を踏み入れるような感覚で、門扉を開けて玄関に入り、廊下を進んでリビングのドアを開けると、日差しがたっぷりと降り注ぐ気持ちの良い空間をメインに持ってきます。そこからキッチンやダイニング、バスルームや各部屋の紹介をして、最後にバルコニーから見える夜景を映し出します。動画は全て高画質の4K。音楽やナレーションも、映画のような上質なものに仕上げたいと思っています」

吾郎の言葉を、原口は大きく頷きながら、隣の木谷は口元に手をやってじっと考え込むように聞いている。

そして紅一点の安藤は、食い入るように吾郎の提示する資料を見つめていた。

「このマンションはファミリー向けであることから、モデルルームにはお子様のご来場も多いかと思われます。その点を踏まえて、誰もが楽しめるようなデジタルコンテンツをモデルルームの各所に設置するのはいかがでしょうか?例えば、マンションの敷地を大きく映し出した案内図に手をかざすと、そこから見える景色をARで紹介したり、ペットのワンちゃんをお散歩させているような感覚になる映像を…」

そこまで言って、吾郎はふと言葉を止めた。

眼鏡の女性の安藤が、目を丸くしながらパッと顔を上げたからだ。

「え?何か?」

驚いて声をかけると、安藤は急いで首を振る。

「い、いえ!何でもありません。失礼しました」

慌ててうつむいた安藤に首をひねりつつ、吾郎は話を再開した。

「あとは、やはり建物の細かい部分もじっくり吟味されるでしょう。そこを、Mixed Reality、いわゆるMRで補います。この技術を使えば、色んなシチュエーションを立体的に、インタラクティブな3Dコンテンツで紹介出来ます。まだ完成していないマンションに、何千万という大きな額を支払っていただく訳ですから、綿密に丁寧に、説得力のあるコンテンツをご用意いたします」

資料から顔を上げて、吾郎は3人の様子をうかがう。

原口は満足そうに頷き、安藤は感心したようにまだ資料を眺めている。

最後に吾郎は、この場の決定権を握っているであろう木谷に目を転じた。

話の最中も表情は変わらず、心の内は読めない。

納得いかないのなら、何か補足を…と思った時、木谷が顔を上げた。
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