極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
「なに?」
「うん、あのね。このお部屋ってこのお値段なんだけど。アートプラネッツのお給料的には、どう?大丈夫かな?」

亜由美は心配そうに小声で聞いてくる。

「透さんは『どこでもいいよー。1番高い部屋でもいいよー』って笑ってたの。でも無理して欲しくないし…。さすがに1番高いお部屋にはしないけど、このお部屋も充分お値段が…」
「ああ、なるほど」

吾郎はニカッと笑ってみせる。

「大丈夫だよー。俺達、こう見えて結構稼いでるんだ。これくらいの金額なら、余裕だよ」

ほんと?!と、亜由美は目を輝かせる。

「ああ。念の為、今電話であいつに聞いてみたら?」
「うん、そうするね」

亜由美は安藤達に断ってから、部屋の隅で電話をかけ始めた。

「もしもし、亜由美です。…うん。今ちょうどモデルルームでお話聞いてたの。あ、吾郎さんも一緒にいてくれてね。それで…、そう。気に入ったお部屋があったの。メゾネットタイプで、シアタールームもある、日当たりのいいお部屋。…え?決めちゃっていいの?お値段のことは?」

しばらく沈黙が続き、うん、分かった。じゃあね、と手短に言って亜由美は席に戻って来た。

「どうでしたか?ご主人は」

安藤が固唾を呑んで尋ねる。

「ええ。あっさり、そこを申し込んでおいでって」

ほらね、と吾郎がしたり顔になる。

「大丈夫だって。あいつは嘘ついたり無理したりするキャラじゃない。亜由美ちゃんが気に入った部屋がいいって、本気で思ってるよ」
「そうかな。大丈夫かな?」

すると原口が、グイッと身を乗り出してきた。

「でしたら奥様。我々、精いっぱいがんばらせていただきます。少々お待ちいただけますか?」
「え?は、はい」

しばらく席を外した原口は、満面の笑みで戻って来ると、亜由美にかなり値引きした額を提示した。

「こちらでいかがでしょう?」
「ええー?!いいんですか?本当にこの額で」
「はい、もちろんです。お世話になっているアートプラネッツ様の大切なご自宅となるのですから、喜んでご提供いたします」
「わあ、ありがとうございます!主人も喜びます」

亜由美は嬉しそうに笑顔を弾けさせる。

結局この日、安藤は初めての商談で初めての申し込みをもらうこととなった。
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