極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
第十四章 トオルちゃんの正体
「かんぱーい!」

その後、亜由美が手続きを終えてモデルルームをあとにすると、片付けを他のスタッフに任せて、原口は安藤を飲みに連れて行くことにした。

都筑さんも、ぜひ!と言われて向かった先は、Bar. Aqua Blue。

(大丈夫かな?彼女、また酔っ払うんじゃ…)

吾郎は気が気でなかったが、まあ今日くらいは盛大にお祝いするべきだろうと思い直した。

「やったな!安藤。初めての商談で即お申し込みいただくなんて、すごい快挙だぞ」
「いえ。都筑さんのおかげですし、あのお客様は最初からお申込みされるおつもりでしたから、私の力ではありません。むしろ私の方がお客様に感謝しなければ」
「まあ、そうだけどさ。でもお前の商談もなかなか良かったぞ。危なげなくて、初めてとは思えなかった。この調子でがんばれ!」
「はい!次は実力でお申込みいただけるよう、精進します」

力強い言葉に原口も頷き、吾郎も、良かったなと頬を緩める。

「それにしても、安藤。最近なんか変わったよな」

しばらく他愛もない話をしてから、ナッツを口に放り込みつつ原口が切り出した。

「眼鏡やめてコンタクトにしたからかな?と思ってたけど、雰囲気や表情も明るくなった気がする。なんかいいことあったのか?」
「え?いえ、別に。いつもと変わりないですけど」
「そうか?でも良かったよ。営業に異動してきた時は、大丈夫かな?って心配してたけど、毎日がんばってるし笑顔も増えてきた。指導担当の俺としてもホッとしてる」

そう言って原口は、営業マンらしい爽やかな笑みをみせる。

「ありがとうございます、原口さん。私も初めは、営業なんて自信なくて…。でも皆さんが優しく接してくださるので、なんとかやって来られました。これからは少しでも皆さんのお力になれるように、がんばります」
「ああ、一緒にがんばろう!」
「はい!」

二人のやり取りに、吾郎は、いいなーと目を細める。

(俺達、ヤローばっかりの職場だもんな。こんな青春物語みたいな爽やかなやり取り、絶対ないわ)

今はモデルルームにかかり切りだが、もう少しすれば吾郎はいつものようにオフィスでの毎日になる。

大河や洋平、そして透。
学生の頃からずっと変わらないメンバー。

懐かしいような、照れくさいような…

(でもまあ、あそこが俺の居場所なのは間違いない)

吾郎はウイスキーのグラスを少し揺らしてから、ゆっくりと味わった。
< 61 / 141 >

この作品をシェア

pagetop