極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
「ですからー、トオルちゃん!私、すごーく会いたいんですよー、トオルちゃんに!」

やっぱり始まった…と、吾郎は原口と顔を見合わせる。

お酒はそろそろやめにして…と原口が言った時には既に遅く。

またしても安藤の一人新喜劇が幕を開けた。

「私の所に真っ直ぐに来てくれるトオルちゃん!可愛いおめめで私を見つめて、健気に近寄って来るの。トオルちゃん、私もあなたが大好きよー!」
「ちょっ、安藤!声が大きいって。そんな赤裸々に叫ばなくても…」

どうやら原口は、安藤が恋人の名前を叫んでいると思い込んでいるらしい。

しきりに辺りを気にして、安藤の口をふさごうとする。

「私、トオルちゃんに癒やされたい!トオルちゃんに会いに行きたいの」
「そ、そうか。それならこのあと行けばいいよ」
「トオルちゃんを思い出すと、仕事もがんばれる。だって、トオルちゃんもあんなに一生懸命お仕事がんばってるんだもん。愚痴をこぼしたりせず、嫌な顔一つしないで、いつもニコニコがんばってる。だから私もトオルちゃんみたいにがんばる!」
「う、うん、それは、いいことだな」
「原口さん!どうしてトオルちゃんの所に連れて行ってくれなかったんですか?もしや、私とトオルちゃんを引き裂こうと?」
「ま、まさかそんな!」
「うわーん!トオルちゃんに会いたかったよー!」

そして安藤は、バタッとテーブルに突っ伏して、スーッと寝息を立て始めた。
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