極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
「都筑さん、お久しぶりです」
「木谷さん、原口さん、ご無沙汰しております」

3人で握手を交わしてから、部屋の隅のテーブルに着いた。

「映像とコンテンツをブラッシュアップですか?こちらとしては嬉しい限りですが、本当によろしいのでしょうか」
「はい、もちろんです。『既存のものに満足せず、常に良いものを目指す』というのが弊社のポリシーでもあります。マンションの建築が進み、全体の風景も随分変わってきました。そこを反映させないままでは、私も納得出来ませんので」
「そうでしたか。アートプラネッツさんの素晴らしさの理由が分かった気がします。それでは、ぜひともよろしくお願いいたします」
「ありがとうございます。詳しい納期はまた後日お伝えいたします」

話し合いを終えてモデルルームを出ると、吾郎は敷地内をゆっくり歩きながら写真を撮る。

(公園やドッグランもほぼ完成してるな)

オシャレな噴水やガーデンなど、改めてここが異国情緒溢れる街のようだと思わせられた。

(透や亜由美ちゃんも、ここに住めば毎日が楽しいだろうな)

二人が笑顔で手を繋いで散歩している様子が目に浮かび、吾郎は微笑ましくなる。

その時だった。
ふいに足元に何かがすり寄って来て、吾郎は驚いて視線を下げた。

「えっ!」

ふわふわでコロコロした茶色の子犬が、吾郎の足に身体をすりつけている。

「お前、どこから来たんだ?」

しゃがみこんで頭をなでると、ぺろぺろと吾郎の手のひらを舐め始めた。

(首輪もないし、近くに飼い主も見当たらないな)

吾郎が辺りをキョロキョロしていると、工事のおじさんが、おっ!と目を留めて近づいて来た。

「まだいたのか、チビ」
「この子犬のこと、ご存知なんですか?」
「いやー、それがな。裏山の工事を始めたら、母犬と子犬が2匹いたんだよ。どうやら山に住みついてたらしくてな。かわいそうに、追いやられて出て行ったんだけど、どうもこのチビだけはぐれてしまったみたいで。見かけたら、時々わしがドッグフードあげてたんだ」
「そうだったんですか…」

吾郎は、頭をすり寄せてくる子犬を抱き上げた。

毛並みはカチコチで艶もなく、身体はやせ細っている。

「あれ、怪我してるじゃないか」

思わす声を上げると、工事のおじさんも、どこ?と顔を寄せる。

「前足のここから血が出てます」
「ほんとだ。木の枝にでもひっかけたかな?」
「おじさん、そこの公園の水道、もう水出ますか?」
「いや、水道工事はまだだ」
「そうですか…」

吾郎は、クゥーン…と、か細く鳴いてこちらを見上げてくる子犬と目が合った。

(まずい。こんなおめめで見つめられたら、もう…)

「連れて帰るしかないか」

そう呟くと、おじさんは「おっ?」と顔を上げる。

「兄ちゃん、飼ってやってくれるか?助かるよ。わしのボロアパートはペット禁止でな。仕事仲間に声かけてもなかなか飼い手が見つからなくて。兄ちゃんが面倒見てくれるなら安心だ。良かったなー、チビ」

おじさんは満面の笑みで子犬の頭をなでていた。
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