極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
「ふう、やれやれ…」

マンションに戻ると、吾郎は子犬を床に下ろす。

病院では、傷は浅い擦り傷で特に心配はいらないと言われ、消毒してから薬を塗ってもらった。

受付の横でドッグフードやリードなども販売しており、吾郎は当面の分だけ購入して帰って来た。

やはり少し栄養が足りていないようだと言われた為、教えられた通りのドッグフードを食べさせる。

「えっと、とりあえずこの食器でいいか」

柔らかいドックフードを皿に載せて子犬の前に差し出すと、少しクンクンと匂いを嗅いでから、パクパクと勢いよく食べ始めた。

「ははっ!いい食べっぷりだな。喉詰まらせるなよ」

あっという間に完食した子犬を抱き上げ、ソファに座ってなでていると、すっかり気を許したように身体を丸めてうとうとし始めた。

病院で洗ってもらった毛並みはふわふわとしている。

「あーあ、まだ見ぬ彼女より先に、お前と同棲することになるなんてな」

独りごちながら、この後の手続きや購入するものを考える。

(えーっと、飼い犬の届け出を出して予防注射を受けて。サークルとキャリーバッグも買わなきゃな)

そこまで考えてふと手を止める。

(名前、どうするかな)

病院で咄嗟にトオルちゃんと答えてしまったが、まさかそのままという訳にはいかない。

(んー、柴犬っぽいから、シバちゃん?それとも、コロコロしてるからコロすけとか?)

なでる手を止めたからか、子犬が目を開けて吾郎を見上げてきた。

「おっ、どうした?シバちゃん」

するとプイッと子犬はそっぽを向く。

「シバちゃんは嫌か?それなら、コロすけは?」

子犬は微動だにしない。

(もしかして、もう染みついてしまったのだろうか、あの名前が)

吾郎は恐る恐る呼んでみた。

「…トオル?」

すると子犬はパッと吾郎を振り返り、アン!と可愛く返事をする。

しまった…、とうなだれる吾郎の顔を、トオルはぺろぺろと舐めまわしていた。
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