極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
それから数日後。
吾郎はトオルを連れて内海不動産のモデルルームに来ていた。

映像をブラッシュアップする中で、完成した実際のドッグランで犬を走らせる映像を撮ることにし、トオルにモデルになってもらうことにしたのだった。

「おー、兄ちゃん!この子、こんなに可愛くなったんか」

駐車場に停めた車からトオルを抱いて降ろしていると、先日の工事のおじさんが嬉しそうに近づいて来た。

「そうなんです。すっかり元気になりましたよ」
「そうかそうか。良かったなあ」

トオルも尻尾を振っておじさんの手を舐めている。

「また顔が見られて嬉しいわ。今日は何か用事?」
「はい。ドッグランで遊ばせて、動画の撮影をしようかと。マンションの紹介映像に使うんです」
「へえ、モデルさんか。がんばれよ」
「アン!」

元気に返事をするトオルに目を細めて、おじさんは、またな!と去って行く。

ドッグランに着くと、「都筑さん!」と声がして、安藤が駆け寄って来た。

「今日はわざわざありがとうございます」
「こちらこそ。撮影に立ち会ってくれてありがとう」
「いいえ。わあー、この子がトオルちゃんですね。初めまして!安藤 莉沙です」

トオルは、アン!と返事をして安藤の方に身を乗り出す。

吾郎が近づけると、トオルはぴょんと安藤の腕に飛び移った。

「ひゃー、可愛い!ふふっ、とってもいい子ですね」

にっこり微笑む安藤の顔を、トオルはぺろぺろと勢いよく舐める。

「あはは!元気ねー。つぶらなおめめにふわふわの身体!とっても可愛い」

トオルは吾郎の存在を忘れたように、安藤にべったりになる。

そんなトオルになんだか寂しさを覚えた吾郎は、いかんいかん!と頭を振る。

(どんだけトオルにぞっこんなんだよ、俺)

気を取り直して、早速撮影に入った。

「ほーら!トオルちゃん。こっちよー!」
「アンアン!」
「あはは!速い速い!すごいわね、トオルちゃん」

安藤とトオルは、まるでラブラブなカップルのように抱き合って微笑む。

(なんだろう、なんなんだ?この感覚は)

もう充分撮影出来たというのに、吾郎はもやもやしたままカメラを回し続けていた。

安藤に駆け寄るトオルの生き生きした表情と、トオルに飛びつかれて笑顔を弾けさせる安藤。

そのどちらからも、吾郎は目を逸らせずにいた。
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