極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
「え、ちょっと!ねえ、起きて!」

慌てて肩を揺するが、安藤は身をよじり、ますますトオルを胸にしっかりと抱いてソファに頭を載せる。

そのうちにトオルまでもがスヤスヤと眠り始めた。

「おい、ちょっと、もう…」

お手上げとばかりに、吾郎は途方に暮れる。

仕方なく安藤を抱き上げてソファに寝かせると、トオルごとブランケットを掛けた。

時計を見ると21時を少し過ぎたところ。

1時間経ったら起こして自宅まで送っていこうと思い、吾郎はローテーブルにパソコンを広げて、やり残した仕事を始めた。

カタカタとキーボードを打つ音だけが響く部屋で、吾郎はソファにもたれて作業に集中する。

一段落して、ふうと息をつき、吾郎はソファを振り返った。

安藤は胸にトオルを抱いて、安心したように眠っている。

知らず知らずのうちに、吾郎は安藤の無防備な寝顔から目が離せなくなっていた。

いつも下ろしている前髪から覗く形の良い額。
長いまつ毛と、ほんのりピンクに染まった頬。

すぐ目の前にある安藤の顔に釘付けになっていると、艷やかでふっくらした唇がほんの少しだけ開いて吐息が漏れた。

「ん…、だい、すき」

ドクンと吾郎の心臓が跳ねる。

だが安藤が胸に抱いたトオルに頬をすり寄せると、吾郎は、はあー、と一気に脱力した。

(なんだ、トオルのことか。いや、それにしても…)

これ以上、彼女がここにいてはいけない。
そう思い、吾郎は安藤を揺すり起こす。

「ほら、そろそろ起きて」
「ん…、あれ?…都筑さん?」

安藤はぼんやりと目を開けると、辺りを見回す。

「ここ、どこですか?」
「俺のマンション。まあ君からしたら、トオルのうちって言った方が正しいだろうけど」
「トオルちゃん!」

胸に抱いているトオルに目をやり、安藤はまた嬉しそうに頭をなでる。

トオルも目を開けて安藤の顔を舐めた。

「えーっと、ラブラブなところ申し訳ないけど、そろそろお開きにしてもいいかな?うちまで送るよ」
「え?あ、そうですよね。すみません」

安藤は身体を起こすと、名残惜しそうにトオルをなでてから、サークルに戻した。

「都筑さん、ご迷惑をおかけしました」
「いや、大丈夫だ。じゃあ行こうか」
「はい、ありがとうございます」

安藤は、バイバイと小さくトオルに手を振ってから、思い切ったように玄関に向かった。
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