彼の愛に、堕ちて、溺れて。〜再会した幼馴染みの愛は、深くて重い〜
 身の回りの世話――要は家政婦的な仕事をするって事なのだろうけど……。

(……ん? ちょっと待って? 今、夜の相手もって言った? 夜の相手って、え? それって……)

「意味、分からねぇの?」
「そ、……そうじゃないけど……私、そんなの……」
「何? 言いたい事があるならハッキリ言えよ?」
「だから、その、身の回りのお世話は、勿論させてもらうけど……よ、夜の相手っていうのは……」
「出来ねぇと?」
「だ、だって……付き合ってもいないのに、そんな事……」
「はは、お前、いくつだ? いい歳してどんだけ純情ぶってんだよ? 今どきセックスくらい、付き合ってなくてもするだろ?」
「し、しないよ、 普通は!」
「あっそ。別に普通じゃなくてもいいよ。とにかく、5000万肩代わりしてやるんだ。俺の言う事は絶対、だろ?」
「…………っ」

 それを言われてしまうと、これ以上何も言えなくなってしまう。

「それと、お前の住んでたとこは引き払うとして、荷物は家具以外を運べばいいよな? 家具は俺のを使えばいいし。そもそも男と使ってた物なんて俺の家に持ち込んで欲しくもねぇからな」
「そ、そんな……! 勝手に決めないで! あのアパートは私だけの部屋じゃないし……」

 確かに逆らえない立場ではあるけど、そんな事まで勝手に決められるのは正直困る。

 あのアパートは同棲していたから篤史の家でもある訳で、いくら荷物が無くなっていても、もしかしたら帰ってくるかもしれないのに引き払ってしまうなんて。

 それじゃあ万が一戻って来た時、彼の居場所がなくなっちゃう。

 そんな私の胸の内は透けて見えているのか、翅くんには筒抜けだった。

「お前さ、どこまでお人好しなの? 5000万の借金押し付けられたんだぞ? それなのにそんな男の心配するとか、頭イカれてんのかよ」
「……だ、だって……」
「はあ、もういい。何言われようとお前の意見を聞く気はねぇ。こっちで勝手にやらせてもらうから」

 言って翅くんは私から離れて再びシートベルトを締めると、怒ってしまったようで仏頂面のまま無言で再び車を走らせた。
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