彼の愛に、堕ちて、溺れて。〜再会した幼馴染みの愛は、深くて重い〜
「質問は?」
「え?」
「聞きたい事あるなら、今のうちに言って」
「え? えっと……」

 突然そう言われ、私は考える。

 いや、聞きたい事はまだまだ山程あるのだけど、あり過ぎて何から聞けばいいのやら。

「あの、仕事は……?」
「仕事?」
「うん。私、会社で働いてるけど、それは続けていいのかな?」
「どこで働いてんの?」
「ヒロタ食品っていう食品関係の会社の事務を……」
「年収は?」
「大体、300万くらいかな?」
「……別に、働きたいなら続けてもいいけど、そんなんじゃいつまで経っても返済出来ねぇな」
「…………だ、だけど……私、風俗なんて無理だし……」
「阿呆か。風俗で働かせたら俺が肩代わりした意味無くなるだろーが。面倒だからそのままその会社で働いてろよ」
「え? で、でも……」
「ま、すぐにでも金作りたいなら、それなりの会社に行くしかねぇけど、アンタには無理だろ。今の会社で働いて、俺の世話してりゃ、何年後かには返し終わるんじゃん?」
「…………」

 借金が5000万円。

 返済するまで翅くんの言う事は聞かなきゃいけない。

 自由になるには、とにかく返済が第一だけど、変な会社で働くなんて嫌だし、彼の言う通り、地道に働くしかないみたい。

 話が終わったところで室内に備え付けられている電話が鳴り響く。

「はい? ああ、通してください。はい、では……」

 短く電話の相手と会話を交わした翅くんはすぐに切って受話器を戻す。

「どうかしたの?」
「アンタの荷物が届いた。今運ばれてくるから」
「え? もう? それじゃあ、部屋は引き払ったの?」
「ああ。必要無い物は全て処分してもらう事で話がついてる」
「……そう」

 結局、住んでいた部屋は引き払われてしまったようで、もう戻る事は出来なくなった。

 運ばれて来た荷物はダンボール箱が四つ程と少なかったけれど、必要だと思う物は全て入っていたので安心した。

「俺はこれから出るけど、アンタは適当にやってていい」
「え? これから出かけるの?」
「まだ仕事が残ってんだよ。それじゃあな」
「あ、うん……気を付けてね、行ってらっしゃい」

 時刻はもうすぐ日付けが変わる頃で、翅くんは残った仕事を片付けに出掛けてしまい、彼を見送った私は与えられた部屋で届いた荷物を片付ける事にした。
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