彼の愛に、堕ちて、溺れて。〜再会した幼馴染みの愛は、深くて重い〜
 捜索から一時間後が経った頃、

「高井戸さん!」
「おー、来たか」

 仲原がよく出入りしていたスナックの女店主の家に転がり込んでいたところをとっ捕まえた俺からの連絡を受けてやって来た加波と吾妻と合流する。

「流石高井戸さん、よく仲原の居場所、分かりましたね」
「頭を使えよ。コイツは金がねぇんだ。そんな奴が遠くに逃げる訳ねぇよ。手段がねぇし、宛もねぇ。それなら、金のあるうちに近場で隠れ場所を確保しておく方が得策だろ? だからコイツがよく出入りしていた店を片っ端から回った。んで、ここの女の焦り具合から怪しいと見て、ちょっと金をチラつかせたらすぐに吐いたって訳。結局金なんだよ」
「んー!!」

 捕まえた仲原の口を布で覆い、床に寝かせて手は後ろで縛ってある為、仲原は声を出そうにも出せず、身動きすらろくに取れない状態だ。

 何か言いたげだが、戯れ言は一切聞く気が無い。

「これでもう逃げられる事はねぇだろ。お前らで人見さんのとこへ連れて行け。いいな?」
「はい! ありがとうございます!」
「助かりました!」

 意外に早く見つかった事で人見さんもそれ程怒る事は無いだろうし、この程度の事なら二人に任せても問題無いと俺は共に向かわず、二人に仲原を引き渡して自宅へ戻る事にした。

 マンションへ着くと、時刻は午前二時半を回っていた。

 流石にこの時間じゃ、実杏はもう寝ているだろう。

 エレベーターに乗って最上階で降りた俺は部屋の前まで歩いて行く。

 そして、解錠して玄関のドアを開くと、

「あ、翅くん……お帰りなさい」

 眠っていると思っていた実杏がリビングからひょっこり顔を覗かせ、少しぎこちない笑顔で『お帰り』と出迎えてくれた。

「あ、ああ…………」

 これには流石に驚き、思わず『ああ』とだけしか言えなかった。

 誰かが待っている家に帰るという事や出迎えられるなんてもう何年もされた事がないからか、何だか少し気恥しくなる。

「っていうか、まだ起きてるのかよ?」
「あ、うん……何だか色々あったからか、眠れなくて……」

 そんな実杏の言葉は最もだと思う。

 俺が言うのもなんだけど、突然男の借金を背負わされ、それを肩代わりすると昔馴染みの俺と再会して金で買われたような形でここに住む事になったんだ、戸惑いもあるだろうし呑気に眠れる程、実杏は神経が図太くは無いのだろう。

「……今からシャワー浴びてくるから、出たら少し話、しないか?」
「え? あ、うん……そう、だね。待ってる」
「ああ」

 それだけ話した俺はそのまま脱衣場へ向かって行くと、急いでシャワーを浴びる事にした。
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