彼の愛に、堕ちて、溺れて。〜再会した幼馴染みの愛は、深くて重い〜
 シャワーを浴び終えた俺は上下黒のスエットというラフな格好でリビングへ戻りソファーに腰かける。

「これ、良かったら……」

 キッチンから戻って来た実杏は、ティーカップを二つ手にして俺の隣に腰を降ろしながらテーブルにカップを置いた。

「……ああ、悪いな」

 一言断って置かれたカップを手に取り、それを飲もうと口に近付けると、どこか独特の香りが鼻を掠める。どうやらこれはカモミールティーのようだ。正直ハーブティーの類はあまり得意では無いが、折角用意されたので一口飲んでみる。

「……美味い」

 すると、口の中に甘さが広がり以前飲んだ事のあるカモミールティーとはどこか味が違っていた。

「本当? 良かった。カモミールティーってリラックス効果があるからお風呂上がりに丁度良い飲み物で、私は気に入ってるの。ただ、そのままだと苦手な人も多いから甘さを加える為に蜂蜜を入れてるの。そうすると、甘くて美味しいでしょ?」
「ああ、そうだな」

 俺が『美味い』と口にしたからか、どこかホッとしたような表情を浮かべた実杏は自身もカップを手に取って一口飲むと、笑みを浮かべながら話しかけて来た。

 実杏の笑顔を久しぶりに見た俺は、何だか懐かしい気持ちになる。

(この笑顔、懐かしいな……あの頃に戻ったみてぇだ)

 当然だけど再会してから今まで実杏が俺に笑顔を向ける場面なんて無かったから、笑顔を向けられて何だか少し嬉しくなる。

「……ようやく笑ったな」
「え?」
「アンタはやっぱり、笑顔の方が似合うよ」
「なっ……え?」

 ふと、俺の口から出て来た言葉に驚いた実杏の顔は、みるみるうちに紅潮していく。

「……あ、ありがとう……。何だか、そういう風に言われると、ちょっと反応に困るけど……嬉しいよ」

 そして、困りながら照れ笑いを浮かべる実杏もまた、何だかすごく懐かしく思えた。

 不思議だ。

 こうしていると一瞬で当時の感覚が蘇り、何年も会っていなかったのが嘘のように感じられた。

 ただ、流石に昔みたいに『実杏姉』なんて呼び方は出来ないから、呼び方をどうするか、それが決まらずもどかしい。

『アンタ』とか『お前』なんて呼び方、偉そうだし素っ気ないし、本当はすぐにでも止めたいのにそれを出来ない気取った自分が恨めしい。
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