彼の愛に、堕ちて、溺れて。〜再会した幼馴染みの愛は、深くて重い〜
序章
 季節はもうすぐ冬本番を迎えようとしていたある日の仕事終わりの事。

 スーパーで買い物をして自宅アパートに帰ると、いつもは点いているはずの灯りがなく、不思議に思いながらも私は暗闇に包まれた部屋の中へ入って灯りを点ける。

「……篤史(あつし)? 居ないの?」

 いつもなら、「お帰り」と笑顔で出迎えてくれるハズの彼と共に、彼の荷物だけが部屋から消えていた。

「……え?」

 驚いた私は一瞬その場で固まったものの、すぐにバッグからスマホを取り出して通話履歴から篤史のスマホに電話を掛けるけれど、『おかけになった電話番号は現在使われておりません』というアナウンスが流れてくる。

(……え? どういう事?)

 消えた彼に、繋がらなくなった電話。いきなりの事に、私の頭の中は真っ白になる。

 今朝、いつも通り笑顔で『行ってらっしゃい』と見送ってくれた彼。

 昨夜だって、いつも通り同じベッドで一緒に眠った。『好きだよ』とキスをしてくれて、抱き締めてくれていた。

 それなのに、どうして?

 どうして、彼は居なくなってしまったの?

 しかも、電話番号が使われてないとか、一体どうなっているのだろう。

(とにかく、捜さなきゃ!)

 そう思った私は宛がある訳ではないものの、居ても立ってもいられず探しに行く為に玄関のドアを開けると、

「アンタが相楽(さがら) 実杏(みあ)?」

 いかにもガラの悪い男の人が二人、行く手を塞ぎ、私の名前を確認してきた。

「は、い……。そう、ですけど……あなた方は一体……?」
戸部(とべ) 篤史と連絡がつかねぇ。アンタの男だろ?」
「え、っと、はい。その……彼とはお付き合いをしている仲ですけど、実は私も彼と連絡がつかなくて困っていたところで……」

 二人組のうち、赤髪ロン毛で派手な柄シャツを着た、少し背が低めの男の方が私に一枚の紙を見せながら、

「そりゃ大変だな。ご愁傷さま。アイツは金返せなくてバックレたんだよ。ほら、これがアイツがこれまで借りた金の借用書だ」

 淡々とそんな話をしてくる。

(え? お金が返せなくて、バックレた? 誰が? 篤史が?)

 突き付けられた借用書を見てみると、確かに篤史の名前が書かれていて、更によく見てみると借りた金額の大きさに驚き、思わず目を見開いた。
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