彼の愛に、堕ちて、溺れて。〜再会した幼馴染みの愛は、深くて重い〜

「その呼び方……もしかして、翅(つばさ)くん、なの？」
「……ああ」

　私が名前を問い掛けると、視線を外して『ああ』と一言だけ答えた彼。

　彼は高井戸(たかいど) 翅くん。

　私たちは同じマンションの隣の部屋同士で、彼の両親も私の両親も仕事が忙しくて家を留守にする事が多くて、五歳年上の私はお姉さんぶって、よく彼の面倒を見ていたのだ。

　そんな私をいつも、『実杏姉』って言いながら慕ってくれていた翅くん。

　一人っ子同士の私たちは、血の繋がった姉弟みたいに仲が良かった。

　周りからも、そう言われていた。

　けれど、私が十七歳、翅くんが十二歳の時、彼の両親が離婚をしてマンションを出て行く事になって、それ以降、彼と会う事は無かった。

　だから、本当に驚いた。

　まさか、こんな形で再会する事になるなんて。

　しかも、今目の前に居る彼は昔の面影が全く無いんだもの。

　あれからもう十年近くが経つ訳だからそれも仕方のない事かもしれないけど、それにしても正直変わり過ぎだ。

　だけどきっと、ここで再会したのは何かの縁だと思う。

　今はとりあえず借金の事をどうにかしないといけない。

　彼ならば幼馴染みのよしみで何とかしてくれるかもしれない。

　そんな一縷の望みを持って私は口を開く。

「あの……翅くん……。その、お金の事、なんだけど……」
「言っとくけど、知り合いのよしみで返済を有耶無耶にしようとするのは無しだぜ？」

　私が言いたい事が分かったのか、彼が先手を打って言葉を続けていく。

「どんな事情があるにしても、俺らは貸した金を返して貰わなきゃならねぇ。5000万、きっちり支払って貰う。これは絶対だから」

　表情一つ変えずに平然とした態度で、返済は絶対だと言った。