彼の愛に、堕ちて、溺れて。〜再会した幼馴染みの愛は、深くて重い〜
 連れて行かれた先は繁華街を抜けた先にある寂れた商店街やビルが建ち並ぶ一角で、複数のテナントが入る五階建てビル五階の【人見金融(ひとみきんゆう)】という会社の事務所だった。

有史(ゆうし)さん、先程電話で話した女を連れて来ました」

 赤髪男と黒髪男の二人に両側からガッチリとホールドされて歩かされて五階までやって来た私は、この金融会社の社長らしき男の人の前に差し出された。

 その人は見たところ四、五十代で黒と金色が混じった髪色に、サイドが刈り上げられ、トップは自然に流したような髪型をしていて一見そこまで柄が悪そうにも見えないけれど、Yシャツ一枚を着ていて胸元が開いているそこから蛇の刺青が見えた事で、やっぱり堅気の人間では無いのだと分かり、思わず視線を外す。

「ご苦労。そんで、この女が戸部に代わって借金返済する立場にあるのに渋ってると」
「そうです」
「勝手に連帯保証人にされただけだとか、そんな大金ないだと言ってばかりで話になりません」
「ふーん?」

 赤髪男と黒髪男の説明に『有史』と呼ばれた社長らしき男は煙草をふかしながら私の事を品定めでもするように見つめてくると、フーっと煙を吐き出した後、空いている手で私の顎を持ち上げて顔を固定された。

「まあ、勝手に連帯保証人……なんて、クズな男の女にはありガチな事案だな。男はバックレ、その女は風俗に売られる。可哀想だとは思うが、男を見る目が無かったと思って諦めるこったな。嬢ちゃんならまあ、頑張れば一年と掛からずに返済出来んじゃねぇか? 顔も身体つきも悪くねぇしな」

 そんな事言われて、『はい、そうですか』なんて納得出来るはず無いけど、こんなイカつい男たちに囲まれた状況下で反論出来るはずもない。

 翅くんは車に乗っている時からずっと黙ったままで、私の方を見向きもしない。

「さてと、後はどこの店に預けるか……だな……。手っ取り早く返すには、この辺りが妥当か……?」

 不安に駆られ、泣きたい気持ちを必死に堪える私をよそに、男たちは私の行き先を話し合っている。

 そんな中、相変わらず黙ったままスマホを弄っていた翅くんがふと私に視線を向けた事で、目が合った。

 藁にもすがる思いで彼に訴えかけるような眼差しを向けると、

「――なあ、有史さん、一つ提案があるんだけど、いいか?」

 突然翅くんが口を開いて、そんな言葉を口にした。
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