彼の愛に、堕ちて、溺れて。〜再会した幼馴染みの愛は、深くて重い〜

「何だ？」
「……俺が5000万立て替えるから、その女を引き取らせて欲しい」

(え……？ 今、何て……？)

　翅くんのその言葉に私は勿論この場にいる全員が驚き、一瞬時が止まったような感覚を感じていた。

「ほお？ 翅がそんな事言うなんて、珍しいな」
「……まあ何つーか、そいつ、俺の知り合いなんすよ。このまま風俗送りにすんのも後味悪いと思ったんで、俺の方で引き取りますわ」
「お前の知り合いか。そんじゃまあ、この嬢ちゃんはお前が買い取るって事でいいか」
「あざっす。金は後で用意してくるんで、ひとまずコイツ、連れ帰っていいっすか？」
「ああ、好きにしろ」

　未だ驚く私をよそに話は進んでいき、結局翅くんが私の借金を肩代わりする……という話に落ち着いたらしい。

(どうして？)

　さっきは私の事なんてどうでも良さそうで、どうなっても知らないって感じだったのに、一体どういう風の吹き回しなのだろう。

「おい、行くぞ」
「あ、う、うん……」

　立ち尽くす私に声を掛けてきた翅くんは私の腕を取ると、そのまま事務所を後にした。

　エレベーターに乗り、二人きりになったところで私は彼に問う。

「あの、どうして……？」
「さっき言ったろ？ 後味悪いと思ったからだって」
「で、でも……」
「何だよ？ まだ何かある訳？」
「う、ううん、そんな事は……。あの、本当にありがとう、翅くん」
「別に。つーか、言っとくけどあくまでも肩代わりしてやるだけで、チャラになった訳じゃないんだけど、そこんとこ、分かってる？」
「う、うん……それはその、勿論」

　確かに、彼の言う通り借金が帳消しになった訳ではないので問題はまだ山積み状態。

　それでも、悪徳業者では無くて彼に返すとなればまだ気が楽になる。

　エレベーターを降りた私は翅くんに連れられて裏手にある駐車場へ辿り着く。

「乗って」

　そして一台の車の前で止まり、鍵を開けた彼はその車に乗るよう促してきた。