【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
34.「これ、代金は全部出世払いでいいですよ」
 その言葉は、半分は本音、半分は嘘だった。

 ドロシーだって王子の立場をよく理解しているつもりだ。だから、彼が中途半端な気持ちでこれまで生きているわけではないことは知っていた。

 ……たとえ引きこもりだったとしても、ルーシャンにはルーシャンなりの葛藤があったはずなのだ。

「……私は侯爵令嬢です。なので、ルーシャン殿下の行動を咎める権力など、持ち合わせておりません」

 目を瞑って、凛とした声音で。ドロシーはただそう告げた。

 ドロシー以外、誰も話していない。ダニエルもリリーも、何も言わない。けれど、それでよかった。そう思いながら、ドロシーは「ですので」と言って一度だけ言葉を切る。

「頑張ってきてくださいませ」

 その声は、何処となく震えていた。

 それに自分で気が付き、ドロシーは自分の心がわからなくなってしまう。が、すぐに「やっぱり、未亡人になりたくないのよ」と自分に言い聞かせていた。

 若くして未亡人など、絶対に嫌だ。周囲に腫物を扱うように接されるのも、嫌だ。そのため、ルーシャンには生きて帰ってきてもらわなくちゃならない。

「……ドロシー嬢」

 そんな意味の分からない声音で、自分の名前を呼ばないでほしい。情が、移ってしまいそうだから。

 心の中でそう思いながら、ドロシーは「……辛気臭いのは、私たちには似合いませんわ」と言う。

「私たちは離縁前提の仮面夫婦以下の存在。……こんな愛し合う夫婦の永遠の別れみたいなの、似合わないわ」

 首を横に振りながらそう言えば、ルーシャンは「……そうだな」という言葉をくれた。その後、ダニエルに何やら指示を出していた。その指示にダニエルは淡々と従い、ドロシーに一通の手紙を差し出してきた。……意味が、分からない。
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