【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「それ、俺が万が一死んだら開けてくれ」
「……はぁ⁉」
「死ぬつもりはない。けれど、保険だ、保険」

 素っ頓狂な声をあげてしまったドロシーに対し、ルーシャンはけらけらと笑いながらそう続ける。

 だからこそ、ドロシーはカチンときてしまう。その手紙を乱暴に受け取り、リリーに「机の奥の奥の奥にしまっておいて」と告げた。

「……お嬢様」

 リリーの呆れたような視線が、ドロシーに注がれる。しかし、ドロシーはそんなものお構いなしとばかりにツンと顔をそむけてしまった。

「……不謹慎ですわね」

 その後、視線だけでルーシャンを見据えながら、ドロシーはそう言う。すると、ルーシャンは「俺は、これでもまだ王族だからな」と返事をくれた。

「王族だから、死んだら大変だ。だから、こういうこともしておかなくちゃならない。たとえるなら終活ってやつだ」
「まぁ、とても早いですわね」

 まるで煽るようにそう告げたドロシーだったが、ルーシャンの言っていることが正しいことだけは、わかっていた。

 そのため、ドロシーはルーシャンにかける言葉をそれだけにとどめたのだ。

「……ドロシー嬢」

 ルーシャンの、真剣な声音がドロシーの耳に届く。その言葉の続きを待っていれば、彼は「……ちゃんと、無事に帰ってくるつもりはあるさ」と言って目を瞑っていた。

「ドロシー嬢と円満離縁、しなくちゃならないからな」

 それから、彼は好戦的に笑いながらそう言っていた。その表情はとても美しくて、魅惑的で。ドロシーですら、見惚れてしまいそうになる。が、その気持ちをぐっと押し殺し、ドロシーは「わかっているならば、いいです」と静かに告げる。

(……もしも、私がここで乙女チックに『絶対に帰ってきてくださいませ』なんて、言ったら……)

 どうなるの、だろうか。

 そう思ったが、そんなものはキャラじゃない。自分にそう言い聞かせ、ドロシーは「……私からも、一つだけ」と言ってポーションの入った箱に視線を落とした。
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