【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
35.「……私にこの代金を返すために、戻ってきてくださいませ」
「はぁ?」

 ドロシーのその言葉に、ルーシャンが怪訝そうな声を上げる。

 それを聞いて、ドロシーは「言葉通りの意味です」と言って目を瞑った。

「代金はすべて出世払い。つまり、あとからでいいっていうことです」

 そんなドロシーの言葉に対し、ダニエルが「……ですが」と声を発したのが分かった。

 実際、生きて帰ってこれる保証などないのだ。だからこそ、代金は今ここで払ったほうがいいのは子供だってわかるだろう。

「……まぁ、一種の約束ですよ」

 ダニエルの声を聞いて、ドロシーはその場に立ち上がり、ソファーに腰掛けるルーシャンのことを見下ろした。その目は、何処となく揺れている。それはきっと、気のせいじゃない。

「……私にこの代金を返すために、戻ってきてくださいませ」

 顔を背けて、ツンとした態度で。ドロシーはそう言う。

 その後「リリー、行きますよ」と言葉をかけ、応接間を出て行こうとする。残されたルーシャンとダニエルは、多分ぽかんとしているだろう。それは容易に想像が出来る。が、ドロシーは振り返ることなどなく。二人の背を向けたまま「そういうことで」と言葉を残して応接間の扉を開いた。

 それから、すたすたと屋敷の廊下を歩く。リリーが慌ててドロシーの後を追ってくるのが、ドロシーにも分かった。そして、彼女が言おうとしていることも。

 予想通り、リリーは「……素直じゃ、ありませんね」と声をかけてきた。だからこそ、ドロシーは「あら、ひねくれ王子にはこれくらいで十分でしょう」と自身の唇に指をあてながら、告げる。

「……お嬢様も、大概素直じゃないです」
「知っているかしら? こういうのを異国の言葉で『つんでれ』とか言うそうよ」
「お嬢様のその使えない知識は、一体どこから仕入れるのでしょうね」
「決まっているじゃない。商人よ」

 軽口をたたきあいながら、ドロシーは自身の生活スペースに戻っていく。

(……素直に生きて帰ってきてなんて、私のキャラじゃないもの)

 内心でそうこぼしながら、ドロシーは歩く。途中使用人たちとすれ違ったが、彼らは特に何も言わなかった。最近ではドロシーも外に出ることが増えたため、彼らも一々驚くことはなくなったのだ。
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