【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
 そう思いながら後ろを振り向けば、そこにはドロシーの母であるハートフィールド侯爵夫人が、立っていた。彼女はドロシーにそっくりな目を揺らしながら、ルーシャンのことを見据えている。

「どう、なさいましたか?」

 出来る限り余所行きの笑みを浮かべ、ルーシャンは応対する。すると、夫人は目を伏せてしまった。

「……ルーシャン殿下は、ドロシーのことをどう思っていますの?」

 そして、この質問である。

 夫人はさすがはあのドロシーの母というだけはあり、大層な美貌を持っていた。元々は伯爵家の生まれであり、ハートフィールド侯爵に見初められ、ここに嫁いできた。それは、ルーシャンも知っている。母に聞かされたためだ。

(ドロシー嬢の、こと)

 いざその質問を突き付けられると、どう回答すればいいかが、わからない。

 しかも、その質問を投げつけているのは、義理の母である。今後のことを考えると、無下にもできなかった。

「……私は、ドロシーのことをとても大切に思っております」

 そんなルーシャンを見据えながら、夫人はゆっくりと口を開いた。

「あの子は、私と旦那様の宝なのです。一人娘だからと、自由にさせてきたことは認めます。甘やかしてきたことも、認めます。その結果、少し変な子に育ってしまいました」

 ……いや、多分少しどころじゃないぞ。心の中だけでそう告げ、ルーシャンは夫人の言葉の続きを待つ。

「あの子は、親の贔屓目を抜いても大層な美貌を持っております。性格だって基本的には優しいですし、令嬢としての教養も身につけさせてきたつもりです」

 それは、ルーシャンだってわかっている。ドロシーは社交の場でミス一つしなかった。それは、侯爵令嬢として申し分のない教育を受けてきたためだろう。引きこもっていても、それなりに令嬢としての立ち居振る舞いなどを学び続けていた証拠になるような気がした。
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