【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
 確かに、ルーシャンやほかの王子、さらには騎士のことも考えるとドロシーの行いは正しい。が、そのためにドロシーが身体を壊せば本末転倒どころの騒ぎではない。リリーにとって、顔も知らない騎士たちよりも、王子よりも、ルーシャンよりも。……ドロシーの方が、大切だから。

「私は、お嬢様が大切です。なので、お嬢様に倒れてほしくはありません」
「……リリー」
「それに、お嬢様とルーシャン殿下は所詮離縁前提の夫婦でしょう?」

 その言葉を言われたためなのだろうか、ドロシーは視線を下に向けてしまった。

 それに、そもそもこの行動はルーシャンに頼まれてやり始めたことではない。自己満足でしか、ないのだろう。

 けれど。でも。自分も、何かがしたかった。

「けれど、私は……」

 下唇をかみながら、そう言おうとする。すると、リリーはドロシーの手首を解放し、「……言いすぎました」と言ってゆっくりと下がる。その光景を見つめながら、ドロシーは「……わた、し」とつぶやいてしまう。

(私のやっていることは、自己満足よ。だけど、何かしたいっていう気持ちは本物なのよ……!)

 ルーシャンのためじゃない。今後の王国のことを思うと、やらないといけない。自分にできる精一杯をして、後押しがしたい。その気持ちに、嘘も偽りもない。そう、ドロシーが思っていた時だった。不意に部屋の扉がノックされ、一人の侍女が顔を見せる。

「……お嬢様。お客様が、いらっしゃっています」

 彼女は、ゆっくりとそう告げて後ろを見つめる。そうすれば、そこにはドロシーのよく知った人物が現れて。

「……ドロシー様。少々、よろしいでしょうか?」

 そこにいたのは、ルーシャンの唯一の専属従者であるダニエルだった。彼は、何処となく真剣な面持ちをしながら、その場で一礼をした。
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