【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
38.「……王妃様が、お呼びでございます」
「……ダニエル、どうしたの?」

 今まで、ダニエルだけがハートフィールド侯爵家にやってくることは一度もなかった。つまり、それだけ例外なことが起きているということなのだろう。

 ……まさか。

 ふと、脳裏に最悪の事態が思い浮かんでドロシーの顔が真っ青になる。けれど、ダニエルは「……王妃様が、お呼びでございます」と静かな声で、眉一つ動かさずに告げてくる。

「……王妃、さ、まが?」
「はい」

 ドロシーの問いかけに、ダニエルは端的に返事をした。いつもは何処となく苦労したような表情を浮かべていることが多いダニエル。が、今日の表情はきりっとした真剣なものにしか見えない。多分だが、重要事項なのだろう。

(いいえ、確実に重要事項だわ。王妃様が直々に私を呼ぶなど、今までなかったもの)

 ドロシーと王妃ディアドラの関係は、いわば嫁と姑である。しかし、今まで直に対面したことはほとんどない。いつもディアドラ付きの侍女がドロシーの用件を聞いて、彼女に伝えてくれる。その形だった。

「そう、わかったわ」

 ダニエルの言葉にそれだけの返事をし、ドロシーはリリーに「着替えるわ」と指示を出す。

「ダニエルは、応接間で待っていて頂戴。着替えだけ済ませるから」
「かしこまりました」

 その言葉に、ダニエルは異を唱えることはなくそのまま下がり、部屋を出て行った。
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