【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
 その後、ダニエルが待つ応接間に向かえば、彼はただ突っ立っていた。ソファーがあるのに腰掛けることはなく、何処となく不安そうな表情を浮かべている。もしかしたら、彼はルーシャンの身を案じているのかもしれない。いや、確実にそうだろう。それは、ドロシーにもよく分かった。

 しかし、指摘するのがいいことだとは限らない。そう思い、ドロシーはダニエルに対し「さて、行きましょうか」と言って静かに声をかける。すると、彼はうなずいてくれた。

 ダニエルが乗ってきた馬車に乗り込み、ドロシーは窓の外を見つめる。いつもと変わらない平和な街並みを見ていると、ルーシャンが魔物退治に行っているということも嘘に感じられてしまう。

(……無事に、帰ってきてほしいわね)

 それは、どういう意味だろうか?

 一瞬だけそんな疑問が脳内によぎったが、出世払いである代金を払ってもらわなければならないのだと、自分に言い聞かせる。

(離縁するにしても、生きて帰ってこられないと、迷惑なのよ。私、未亡人にはなりたくないもの)

 目を閉じて心の中でそう呟いていれば、真ん前に腰掛けるダニエルが「……ドロシー様」と声をかけてくる。

 そのため、ドロシーは「どうしたの?」と目を開いて返事をする。

 すると、彼は真剣な面持ちで「ルーシャン殿下は、大層ひねくれております」と静かな声音で告げてきた。

「……知っているわ」
「無茶ぶりはされますし、引きこもりですし、もうとてもとても世話が焼ける主でございます」

 こぶしを握り締め、ダニエルはそんなことを熱弁する。その姿はあまりにも哀れで、今まで彼がどれだけ苦労してきたのかが、よく見えたような気がした。不本意なことに。
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