【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
39.「……殿下のこと、よろしくお願いいたします」
「……そう」
「ですが」

 ドロシーが相槌を打ったのを聞いてか、ダニエルはまっすぐにドロシーのことを見据えてくる。彼のその目が、何処となく優しく細められたような気がして、ドロシーは息を呑む。

「誰よりも優しくて、誰よりも素敵な主でございます。……俺は、殿下に救われました」

 そう言ったダニエルの言葉が、今まで聞いたどの言葉よりも優しくて。ドロシーの胸に何とも言い表しがたい感情がじんわりと広がっていく。その理由も意味も、よく分からない。もしかしたら、夫であるルーシャンが従者にこんなにも思われていることが、嬉しいのかもしれない。

「……そう、なのね」

 でも、そんなこと死んでも口に出せない。

 そう考え、ドロシーは端的に言葉を返す。そうすれば、ダニエルは「……殿下のこと、よろしくお願いいたします」と言って頭を下げてくる。

 しかし、それは頼まれても無理なものだ。どうせ自身とルーシャンは一年後には離縁する。延長なんて受け付けないし、あっちだって延長なんて嫌だろう。そんな風に思って、ドロシーはそっと視線を逸らした。

「殿下は、どうにもドロシー様のことがお気に入りのようですので」
「……嘘よ」
「いいえ、殿下は筋金入りの女性嫌いでございます。あれだけお話するのも、ドロシー様だけです」

 あまり、長々と話した覚えはない。けれど、ダニエルの言っていることは正しいのかもしれない。

 実際、ルーシャンが長々と女性と話している場面を見たことがなかった。付き合いが短いため大した根拠はない。でも、同類であるドロシーにはわかるのだ。
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