【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「……何?」
「殿下が、ドロシー様に渡しておいてほしいと、旅立つ前に俺に渡してこられました」

 その箱は美しく、宝石箱の様だった。けれど、宝石が入っているようには思えない。ドロシーの予想では、アクセサリーの類だろうか。

「……どうして、直接渡してくださらないのよ」

 旅立つ少し前にドロシーに会っているというのに。そんな不満を零せば、ダニエルは苦笑を浮かべながら「殿下は、ひねくれておりますので」という。

「俺の予想でしかありませんが、照れくさかったのだと思いますよ」
「……そう」

 ダニエルの言葉にそれだけを返し、ドロシーはその箱を受け取りふたを開けてみる。

 中に入っていたのは、シンプルな指輪だった。宝石が取り付けられている部分には、魔鉱石という魔力がこもった宝石の一種がはめられており、色は淡い紫色。

(……魔鉱石って、かなり希少なものなのに)

 言っちゃあ悪いが、これ一つで多分豪邸が立つ。王家の懐は潤っているし、彼にとっては特に気にするべきことではないのかもしれないが、商売人であるドロシーからすれば頬が引きつってしまう代物だ。

「殿下、なんだかんだおっしゃっても、ドロシー様のことを大切にされていますよ」

 本当は、ドロシーだってそれはわかっていたのだ。

 ダニエルに言われる前から、うっすらと彼の態度が軟化していたことに、気が付いていた。それに、そうじゃないとわざわざ魔物退治に旅立つと教えてくれないだろう。

「……あと、殿下から伝言です」
「……何かしら」
「そのアクセサリーは、気に入らなかったら容赦なく売り払ってくれていいから、とのことでした」
「ムードもへっちゃくれもない男だわ」

 その伝言に呆れながら、ドロシーは箱のふたを閉じる。売り払うつもりはこれっぽっちもない。けれど、身に着ける予定もない。あえて言うのならば……そう。

(作業場に、飾っておいてあげるくらいならば許してあげるわ)

 机の上に、飾っておいてやろう。一番きれいな、特等席に。
< 117 / 157 >

この作品をシェア

pagetop