【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
41.「……ですが、私は宝石もドレスも欲しくありません」
「……ですが、私は宝石もドレスも欲しくありません」

 けれど、これだけは伝えなくては。そう思い、ドロシーはディアドラの目を見つめてそう静かに告げる。

 その後、目を伏せて「私は、そんなもの欲しくありません」ともう一度繰り返す。

「私もルーシャン殿下に……いえ、王子殿下方に無事に帰ってきてほしいです。その気持ちは、王妃様と同じです」

 ディアドラの目をしっかりと見つめて、ドロシーは意を決したようにそう言う。すると、ディアドラのその紫色の目が零れ落ちそうなほどに大きく見開かれる。だからこそ、ドロシーはふっと口元を緩めた。

「王妃様が、私たちのことをどう思われているかは存じ上げません。ですが、私とてルーシャン殿下が亡くなるのは不本意でございます」

 こんなこと、義理の母親の前で。ましてや王妃の前で言うことではないだろう。わかっている。わかっているのだけれど……自分の気持ちをまっすぐに伝えたかった。

 その意味を込めてドロシーがディアドラの目を見つめていれば、彼女は「……そう」と言った後肩をすくめる。

「貴女のお気持ちはよく分かったわ」

 そして、ディアドラはそう言うとドロシーの目をまっすぐに見つめる。それから「……私、貴女に今後のことはすべて任せるわ」と言ってゆるゆると首を横に振る。

「……貴女が、魔物退治の後方部隊の指揮を執りなさい」
「え?」
「とはいっても、すべての指揮ではないわ。聖女や治癒師、つまりは後方支援の部隊だけよ」

 きれいな声で、きれいな笑みで。ディアドラはそう告げてくる。それに目を丸くしていれば、彼女は「貴女の方が、私よりも役に立てるはずだから」と言って目を瞑る。
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