【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「ダニエル。ドロシーさんを送って差し上げなさい」
「かしこまりました。……ドロシー様、行きましょうか」

 ダニエルにそう言われてしまえば、もう自分がディアドラに話しかけるのは不敬だろう。そう思い、ドロシーはぺこりと頭を下げる。部屋を出る前にディアドラの「……どうか、無事でいてほしいわ」という声には反応できなかった。

(……私も、無事でいてほしいと思っているわ)

 部屋を出てそう思い、目を瞑る。ルーシャンとは円満離縁を目指しているのだ。少なくとも死に別れなんて嫌すぎる。未亡人なんて嫌すぎる。

「……ドロシー様」

 そんなことを考えていれば、不意にダニエルに声をかけられる。そのため彼に視線を向ければ、彼は「……王妃様は、どうにもドロシー様のことを気に入ったようですよ」と言って口元を緩めていた。

「……え?」
「まぁ、あの方は境遇が境遇ですので、基本的に優しいです。ですが、ドロシー様へは何処となく気を許しているように思えるのです」

 ダニエルはドロシーのことを入り口に案内しながらそう言ってくれる。

 ディアドラの境遇はドロシーも小耳にはさんでいる。出身国ではあまりいい扱いを受けていなかったということ。そこを現国王スペンサーに見初められ、誘拐まがいの方法で娶られたということ。それは、このネイピア王国ではある意味伝説として語られているのだ。

「……まぁ、嫁と姑の関係が良いのはルーシャン殿下にとっては楽な案件でしょうね」
「それは、そうだけれど……」

 ダニエルの言葉に同意すれば、彼は「……後方支援、頑張ってください」と真剣な声音で告げてきた。……どうやら、彼なりにドロシーの緊張を見抜き、ほぐそうとしてくれたらしい。

(こういうところ、なんていうか不器用なのね……)

 関わってきてわかっていたが、ダニエルはかなり不器用な人種だ。それを実感しながら、ドロシーはふっと息を吐いた。

 さぁ、これからどう頑張ろうか。

(王妃様に託された以上、きちんと仕事は全うしてみせるわ)

 ぐっと手のひらを握りしめ、ドロシーはそう決意をした。
< 123 / 157 >

この作品をシェア

pagetop