【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
43.「では、そちらにお通しして頂戴。……話を聞くわ」
(ブラックウェル公爵家のエイリーン様、ね)

 ダニエルの言葉にドロシーは内心でそう呟く。その後、ダニエルにもう一度視線を向けた。

 彼はあまりいい表情をしていない。やはり、会うのはあまり得策ではないと思っているのだろう。

 それにドロシー自身もエイリーンにいい印象は抱いていない。以前のパーティーで、彼女は確かルーシャンに言い寄っていたはずだ。

(大好きなお方の妻と二人きりで話がしたいなんて、きな臭いことこの上ないわ)

 そう思い、ドロシーはゆるゆると首を横に振る。が、すぐに愛想笑いを浮かべたかと思えば、ダニエルに「どこか空いているお部屋はあったかしら?」と問いかけた。

「……えぇ、第三休憩室が、空いていたかと」
「では、そちらにお通しして頂戴。……話を聞くわ」

 それだけを告げ、先ほどまで指示を飛ばしていた場所に戻ろうと踵を返せば、ダニエルの「ドロシー様!」という声が聞こえてきた。その声を聞いたドロシーは後ろを振り返る。その際に金色の髪がさらりと揺れた。大層美しい光景だった。

「お言葉ですが、あのお方にはあまりいい噂がありません。……以前だって、ルーシャン殿下に言い寄って……」
「そうね」

 ダニエルの心配そうな言葉をあっさりと肯定し、ドロシーは口元に手を当てる。その後挑発的に笑ったかと思えば、少しだけ首を傾げた。その表情や態度はとても妖艶なものである。

「でも、私は王子の妻。たとえあまりいい印象を抱いていなかったとしても、民の声に耳を傾けるのは必要なことを」

 余裕たっぷりにそう言えば、ダニエルは「……そこまで、おっしゃるのならば」とまで言って下がっていく。どうやら、エイリーンを第三休憩室に通すようだ。
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