【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「……王妃様。ルーシャン殿下は……」

 目を伏せてそう言えば、ディアドラは「……あの子に、責任はないと私は思っているわ」と首を横に振りながら言う。

「確かに、ブラックウェル公爵家の令嬢が暴走したのは、あの子が原因かもしれない。……だけど、そんなこと言い出したらキリがないのよ。……あの子は、小さなころから周囲を狂わせてきた」

 小さな声でディアドラはそう言う。その目は何処となく懐かしむような色を宿しており、その目にドロシーの胸が微かに震える。

「……あの子は、周囲を狂わせないように引きこもり始めた面もあるのよ」
「そうなの、ですか」
「えぇ」

 それは、ドロシーも知らないことだった。そう思い目をぱちぱちと瞬かせていれば、ディアドラは「責任は全面的にブラックウェル公爵家の令嬢にあるわ」と淡々とした声で告げる。その声に、先ほどまでの優しさは微塵も感じられない。

「自分の気持ちを制御できない人間は、聖女になんてなれない。私は、そう思う」

 そんな言葉の最後に、ディアドラは「どうか、これからもルーシャンをよろしくね」と付け足し、部屋を出て行く。

(……ルーシャン殿下を、よろしく、か)

 ディアドラが出て行った後、ドロシーはぼんやりとしていた。が、リリーの「お嬢様」と呼ぶ声に現実に戻り、ポーションの調合に移る。……兵士や騎士たちが無傷だとは考えにくい。ならば、ポーションは量があった方が良い。残ったのならば残ったで、また売りさばけばいいのだから。

(……けれど、何となく嫌な予感が……)

 結界は張れた。なのに、どうして胸の中にとげが刺さったような感覚なのだろうか。小さなとげは大きくなり、嫌な予感をドロシーに与えてくる。……気のせいだ。気のせいだって――言いきれたら、いいのに。
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