【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「俺も、食べたことはないから味は知らないけれどな。王妃様のおススメらしいし、ハズレではないと思う」
「でしたら、安心ですね」

 リリーはティーポットを扱いながら、そんなことをぼやく。この国の王妃である、ルーシャンの母であるディアドラは大層な美食家である。というのも、ディアドラの生まれ育った国は『美と食の国』と呼ばれている国であり、ネイピア王国よりも調理技術などがかなり進んでいた。そんなディアドラの意見を取り入れたこともあり、ネイピア王国の調理技術もここ二十数年でかなり向上している。

「さて、リリー。俺はドロシー様の情報を最低限知っておきたいのだが……。少し、話を聞かせてくれるか?」
「え、えぇ、よろしいですが……それは、何のために?」
「茶や食の好みを知っておけば、これから迎え入れるときにいろいろと便利だからな。……正直、面倒かもしれないがここは主のためだと思って、頼む」

 そんな風に軽く頭を下げてくるダニエルは、何処までも真面目なようだ。それが伝わったからこそ、リリーは「私でよければ」と言っていた。元より、リリーはドロシーが大好きである。ドロシーのためならば、自らの苦労など厭わないくらいには。

(ルーシャン殿下は気に入らないけれど、このダニエルさんはとてもいい人みたいね)

 リリーは脳内でそう零しながら、淹れ終わったお茶をゆっくりとワゴンに載せる。その後、ダニエルが盛りつけた和菓子を隣に載せ、ゆっくりとワゴンを押していく。

「今回のお茶は、和菓子に会うと王妃様がおっしゃっていたものを用意しております。ドロシー様のお口に、合えばよろしいのですが」

 ダニエルは一足先に主たちの元に向かい、和菓子とお茶の説明をしているようだ。そんなダニエルのことを少しばかり「頼もしい」と思いながら、リリーはワゴンを押すのだった。
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