【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「そ、その……ドロシー様。今回はお引き取りを……」
「今回『も』でしょう? そう言って早三か月が経ちましたわね。私とて、この婚姻に魅力を感じたので了承しました。ですが、さすがにこれは……妻を蔑ろにしすぎでは!?」

 バンっと近くの壁を叩いたドロシーを見て、従者が震えあがる。それを見た周囲の人間たちは、心の中でドロシーに対応している従者を哀れんだ。ドロシーは普段は温厚で笑みを絶やさない性格だ。だからこそ、一度起これば手が付けられなくなる。そのため……誰も、止めようとしない。

「もういいです。ルーシャン殿下にもお伝えください。……こちらにも、考えがありますわ、と」

 それだけを残したドロシーは、踵を返して歩き始めた。その歩き方にはとても品があり、ドロシーの美しさを増幅させている。滅多なことで社交界に出ないドロシーは、貴族の令嬢たちの憧れでもあった。……まぁ、その憧れはハリボテであり、彼女たちはみなハリボテに憧れているに近しいのだが。

(こちらとて、夫に会わなくて済むのは願ったりかなったりなのよね……。けど、さすがに挙式に関しては文句の一つや二つ、言いたいからなぁ)

 そう、このドロシーは本当はルーシャンになど会いたくなかった。たった一言、「このバカ! わからずや!」と文句を言いたいがために、王城に通い詰めているだけに近しいのだ。

 ドロシー・ハートフィールド。彼女もまた人間嫌い……特に男性嫌いをこじらせている人物なのだ――……。
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