【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「だからさ、来週ドロシー嬢の仕事を見せてくれない? ポーション作り、とかさ」
「……はいぃ?」

 さらには、そんな言葉を続けられドロシーは戸惑ってしまった。一体、何が何だというのだ。そもそも、ポーションを作るにはそれ相応の設備が必要である。調合道具に、多数の薬草。とてもではないが、ここにそんな設備があるとは思えないし、一週間で設備を作ることも出来ないだろう。

「それは構いませんが……ここに、そう言う設備はありませんでしょう? なので、遠慮……」
「じゃあ、俺がハートフィールド侯爵家の屋敷に、出向く」
「はいぃぃ?」

 また、ドロシーは変な返事をしてしまった。それに気が付き、ドロシーは慌てて自身の口を塞ぐもののルーシャンにはしっかりと聞こえていたようで。ルーシャンはクスっと声を上げて笑う。それを不快に感じ、ドロシーは「意味が、分かりません」と告げ誤魔化すように凛とした態度を作り上げた。

「どうせ、いずれはそっちにも顔を出さなくちゃだし。だったら、遅かれ早かれ構わないでしょう? だから、俺はドロシー嬢の実家に出向く。……いいよね?」
「いや、そう言うのは、ちょっと……」

 ――まだ、早いのでは?

 ドロシーはそう言おうと思ったが、言う前に口を閉ざした。普通、婚約者同士でも互いの家を行き来するものだ。ただ単に、ドロシーとルーシャンの関係が特殊なだけである。そのため、ドロシーはしばし考えたのち「……承知いたしました」とだけ答えておいた。

 そもそも、婚姻して三ヶ月も会っていない程度の関係なのだ。今更、屋敷に招いて何か関係が発展するということもないだろう。だったら、計画が狂うこともない。ドロシーはそんな風に思い直し、そう答えていた。

「そっか。じゃあ、また来週。……俺、結構楽しみにしているからさ」

 最後に、ルーシャンはその美しい顔を少しだけ楽しそうに緩め、そう言ってくれた。それを見たドロシーは、胸がときめく――わけもなく。抵抗するように、それはそれは美しい笑みを浮かべる。

「あら、私は楽しみではありませんわ。ごきげんよう」

 美貌の二人の美しい笑み。それを見たリリーとダニエルは、うすら寒い空気を感じてしまった。美しい人間が笑顔を張り付けると、かなりの迫力が、あった。
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