【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「おかげでここ一週間、調合しにくくて仕方がなかったわ」
「我慢してくださいませ」

 ドロシーの愚痴に、リリーは苦笑を浮かべながらも答える。本当はリリーだってドロシーの意見を尊重したい。だから、離縁をしたいという気持ちも尊重するつもりだ。だが、ドロシーの両親はどうだろうか。一人娘であるドロシーを溺愛するあの二人が、ドロシーの経歴に傷がつく離縁を意味なく認めるとは思えない。ましてや、ドロシーの婿が跡継ぎなのだ。ドロシーを易々と修道院にやるとも考えにくい。

「そう言えば、ジュリアナ様からパーティーの招待を受けたそうですね」

 ふと、リリーはそんなことを思いだしてドロシーに声をかける。ジュリアナはドロシーのことが大好きだ。それはもう、会えばずーっと引っ付いているくらいには。だが、彼女はドロシーの引きこもり体質を知っており、無理に外に連れ出したりはしなかった。そんな彼女が、ドロシーをパーティーに誘ったのは初めてのことだった。

「えぇ、まぁ。出来ればルーシャン殿下と同伴で、とも言われたわ」
「さようでございますか」
「ま、あのひねくれ王子殿下が素直に同行してくださるとは思えないから、多分私一人で行くことになると思うけれど」

 ドロシーはリリーの言葉にそう返し、目の前にあった薬草を綺麗にタッパーに詰めていく。ルーシャンは調合の様子が見たいと手紙で伝えてきた。だから、今回は効力が高く、傷を癒すことに長けたポーションを実際に作るつもりだった。さながら研究所見学の様だと、ドロシーは思う。まぁ、この雑多な部屋を見れば研究所のように見えてしまうかもしれないのだが。

「……本日は、何を準備されたのですか?」
「ルビー草とウェットン草よ。いつもの商人から仕入れたの」

 そう言って、ドロシーは二つのタッパーを見せてくれる。貴族の令嬢が触れるとは思えないほどの、禍々しい赤色をした草。そして、みずみずしい普通の草。その二つを見つめながら、リリーは「……お嬢様って、変人ですよね」なんて今更なことを言い出す。
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