【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
14.「……うん、普通の令嬢はまず薬草を保管なんてしないから」
 ドロシーが屋敷の玄関に向かえば、そこではすでにドロシーの父である侯爵がルーシャンを出迎え、会話をしていた。ルーシャンは黒いローブを身に纏っており、何処からどう見ても魔術師と言った雰囲気である。その後ろにはいつもの様にダニエルが控えており、彼はドロシーに気が付くと従者の礼を取った。

「お父様、ルーシャン殿下」

 ゆっくりとドロシーが二人に声をかければ、二人ともドロシーに視線を向けてくれる。侯爵は目の色以外はドロシーにそっくりであり、ドロシーが男性だった場合こういう年の取り方をするのだろうと連想させる容姿の持ち主だ。ちなみに、ドロシーの目の色は母から受け継いだものである。

「あぁ、ドロシー」

 侯爵はそれだけを言うと、「では、私は失礼いたします。どうぞ、ごゆっくり」という言葉をルーシャンに残し、仕事に戻っていく。そんな侯爵の後ろ姿を見つめながら、ドロシーはルーシャンに綺麗な一礼を披露する。その後「案内しますわ」とだけ告げ、ゆっくりと今来た廊下を戻っていく。

「……ドロシー嬢は、俺の服装については触れないんだ」

 屋敷の中を歩いていると、ふとルーシャンが後ろからそう声をかけてくる。その声は本当に不思議だとでも言いたげで。ドロシーは振り返り「人避けでしょう?」と笑みを張り付けながら言う。

「容姿を隠すには、そう言う格好が最適だと私も知っておりますもの。私も度々仕入れに行く際は、そんな格好で外に出ますから」
「へぇ」

 ルーシャンはドロシーの言葉を聞いて納得しているが、ドロシーの言う仕入れは三ヶ月に一回程度のものである。普段は信頼のおける商人を屋敷に呼び、全てを屋敷内で済ませてしまう。なんといっても、ドロシーは引きこもりの令嬢だから。
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