【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「地味で結構です。それに、私こういう研究所みたいな雰囲気が好きですから。なんというか……自分が、賢くなった気がしませんか?」

 そう言いながら、ドロシーは先ほどタッパーに詰めたルビー草とウェットン草を取り出す。ドロシーは調合をしているだけはあり、かなり賢い方だ。まぁ、令嬢には賢さなど求められない場合が多いため、ドロシーは自分の頭脳がどれだけ優れているかを知らないのだが。

「私室も、こんな雰囲気?」
「まさか。私室はもう少し綺麗です。白を基調としていて、どちらかと言えばシンプルな感じかと」

 調合に使う道具を取り出しながら、ドロシーはそんな風に答えていく。ルーシャンの後ろにはダニエルがおり、彼は物珍しそうに部屋を見渡していた。そんな様子を不快に思うこともなく、ドロシーは「さて、何か尋ねたいことはありませんか?」と言ってルーシャンを見据える。それを聞いたルーシャンは「……まぁ、いろいろとあると言えばある」なんて言い、ドロシーの手元にあるタッパーを見つめる。

「令嬢が触れるものじゃないよね、タッパーとか」
「そうですか? 薬草の保管にこれ以上適したものはないかと思いますけれど」
「……うん、普通の令嬢はまず薬草なんて保管しないから」

 普通の令嬢は宝石に目を輝かせ、自分を着飾ることに執着する。だが、ドロシーは薬草に目を輝かせ、ポーションや調合に執着してきた。そんな自分が普通ではないことくらい、ドロシーだって承知の上なのだ。

「知っています。……けど、私自分を着飾るということにイマイチ興味が持てなくて」

 苦笑を浮かべながら、ドロシーはそう答える。幼少期は、普通の令嬢のように自らを着飾った。父や母はドロシーが欲しいものをすべて買い与え、その容姿を存分に磨き可愛がった。だが、ドロシーはその生活を「つまらない」と感じていた。

「ある日、薬学の本をお父様の執務室で見つけました。それを読んで以来……私は、すっかりこの世界にのめり込みました」

 忘れもしない、幼き日。こっそりと父の執務室に忍び込み、見つけた薬学の本。それを読んだとき、ドロシーは自分の人生が色づくのを実感した。きっと、あれが世にいう『運命の出会い』なのだろう。

「ま、そう言う世間話はまた今度。せっかくですし、いろいろと見ていただきたいものがありますから!」

 手をパンっと叩いて、ドロシーは笑みを浮かべる。それは、心の底から浮かべたとても眩しい笑みだった。
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