【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「いい人って……」
「性格もですけれど、人として尊敬できるところが多い方ですから。お嬢様とルーシャン殿下がお話している間、私たちもお話をすることが多々ありましたので」
「……初耳だわ」

 それは、正真正銘ドロシーにとって初めての情報だった。もしかしたらだが、ドロシーの知らないダニエルの情報を、リリーは手に入れているのかもしれない。そう思ったが、別段ドロシーはダニエルに興味がない。抱く印象としては「ルーシャン殿下に振り回されて可哀想」というものだけだ。

「主へのあの忠誠心、見習うべきものです」
「……そ、そう。リリーの忠誠心も素晴らしいと思うわよ」
「いいえ、あの人には敵いませんよ」

 リリーはそれだけを言うと、ドロシーの前にお茶を出してくれる。まだ湯気が上がるその温かいお茶を口に運べば、少し気分が落ち着いた気がした。

「ダニエルは、どうしてルーシャン殿下の従者をしているのかしら?」
「……元騎士で、怪我をされて続けられなくなったと言っておりました。そこを、ルーシャン殿下に拾われたとかなんとか」
「……そうなのね」

 なんだか、想像以上に仲良くなっている気がする。そう思いながら、ドロシーは目の前に出された本日のお茶菓子であるマドレーヌをつまむ。そして、こっそりと「仲が良いじゃない」とぼやいておいた。それはリリーには幸い聞こえていなかったようで、「お嬢様、何かおっしゃいましたか?」と返してくる。そのため、ドロシーは「いいえ、独り言よ」とだけ告げた。これ以上からかうのは、得策ではない。そう、判断したのだ。
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